保毛尾田保毛男がTV放送された理由
フジテレビで、先日とんねるずが昔のネタを放送して問題になっています。
大学を卒業する前からテレビ業界で仕事をしていた経験のある私は、
日本でのこのニュースを聞いて
「あーあ、だーれも止められる人がいなかったんだな」
と、思ったのが最初の感想でした。
テレビ業界というのは、日本の企業の中でもかなり異常で特殊な業界で
非常識的なことが常識としてあるのが当然の世界でした。
人間が、人間として働けない職場。
セクハラなんて当たり前だし、なんだかよくわからないハラスメントが過激であるほどクールだ。くらいの空気もありました。
あんまりに酷いことがありすぎて、私の頭の記憶からは消滅しつつあるし、
ここにあえて記録するのも反吐が出そうなことばかりです。
なかには、焼き肉屋の食事中に、後輩の耳を噛みちぎって、焼いて食べた
という信じられない体験を武勇伝のように語っている先輩もいました。
でも、私が働いていたのは2000年ちょっとすぎまでの、今から10年以上前の話です。当時でも、すこーしづつですが、セクハラが問いただされる空気も出て来ていました。
なんといっても、テレビ全盛期頃ほど制作費はつかず、現場のディレクターやアシスタントたちは、シビヤな経費削減をプロデューサーに指示されたりと、
お祭り騒ぎだった昔の良きテレビ時代とは、違うんだよ
という空気があったんです。
とはいえ……
一緒に仕事をしていたディレクターたちは、バブルの狂った時代(なんでもあり)にアシスタントを経験して来ているので、自分たちがそうされたように、アシスタントに殴る、蹴る、無茶を言う、という仕打ちは日常茶飯事で行われていました。
そして、そのやり方を変えることも特にありませんでした。
それが、2010年以降の最近では
暴力やセクハラなんてもってのほか
アシスタントは、なるべく家に返すように。
という、私が働いていた時に比べると信じられないくらいの変革が今は起きているそうです。
化粧をしたり、ハイヒールやスカートを履いて仕事をしている女性アシスタントがいると聞いて、驚いたほどです。
私が働いている時は風呂にも入れない不潔な上に、いつでも走れる機能的な服装が重視されていました。
それだけ変わって来ているテレビ業界でも、絶対の絶対に変わらないだろうということがあります。
それは、タレントが神様であるという絶対的カーストです。
このカーストは、テレビの中で働いてみると、身の毛のよだつ恐ろしいものであります。
なぜなら、そんな神に近づいて何か粗相でも起こそうものなら
神を取り囲む者たちに、大変な仕打ちを受けるからです。
ああ、これも書きたくないくらい酷い話です。
特に、私が働いていた番組や制作会社の中の頂点には
ビートたけし、所ジョージ、さんま
といったような大御所タレントがいたこともあり、その緊張感たるや、
アシスタントたちは
「なるべくこれらのタレントには近づきたくない」「一緒にロケなんて悪夢」という恐怖を抱いて仕事をしていました。
彼ら神の言う事は絶対であるがために、テレビ番組で一番の権限を持つ、総合演出家、を始め、放送作家やプロデューサーら、どんなに偉いスタッフであっても逆らうことができません。
今回の
保毛尾田保毛男
という大昔のネタを、フジテレビが制作してしまったのは
タレントさんたちが、「古き良き、あの時代のテレビの思い出をもう一度」
というノリで、やっちゃえ!と盛り上がったのを
誰も止められなかった。
というような事情が目に浮かんできます。
誰も止められなかった。なら、まだ、ましかもしれません。
それは、「今の時代にやることじゃないよね」と思える感覚の人が少なくともいたということですから。
テレビの世界って、おそろしく時間がとまったまま生きている人が結構いたりするので、
ひょっとしたら、その現場にいた人全員が
「やっちゃえ!昔を懐かしんでお祭り騒ぎだ!」
と思ってやっちゃっただけなのかもしれません。
やっちゃっただけ……。
社会の中の常識とテレビ局の中の常識がずれているというのは、
今も昔もあまり変わらないのかもしれません。
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