キティに願いを。

でろ、でろ、

心で唱えながらあたしはハンドルを回す。

ぽん、

「あー!」

思わず声が出てしまった。ハズレ。ポムポムプリン。

あたしは出勤前に絶対ガチャガチャの専門店に寄り道してなにか回すのが日課になっている。

かわいいのが出たら今日はいい日、そう思うとなんだか愉快だ。

あたしはサンリオではキティさんが大好きでカワイイことで会社を守っている彼女をひそかにリスペクトしている。キティさんのカワイイには業を感じるのだ。

でも幼少期から最近までマイメロちゃんが推しだった。元カノだって思ってる。今はあんまり好きじゃないけどサンリオショップに行くといやに目を引くのは彼女のグッズがピンク色なのと、わたしが彼女を好いているのではなく、彼女がわたしのことを好いているのだと勝手に思ったりする。

ライン!ライン!!

けたたましくLINEの通知音が2度鳴った。

スマホを開くとやはり2件来ていておぢからの

「りん😎、お店🥃、行けないけど、ガンバってね🔥💪🏻私は、今から、ボーリング🎳に行きます💓💓💓💗」

っていう世界一いらない連絡と彼氏のそーくんからのLINEだった。

「今日さむ!俺今からエースと店前同伴!りんも仕事がんばれよー」

そーくんはホストで19歳。腕にまどマギのワルプルギスの夜のタトゥーが入ってるイカれたやつ。

あたしはそーくんに店前同伴してくれるエースがいないことも、ほんとはラスソンとってないことも、今後ホストやっててもカンブホサとかになれないこともわかってた。

お酒飲むと同じ話ずっとしてて、それは酔っ払った飲み屋に来るおぢを思わせるときもある馬鹿で軽薄なとことか、ファンデの色合ってなくて首と段々になってるとことか、全部かわいいって思ってあげないとこの子はだめだ。そう思っている。

あたしだって今の店でもたいしてお客さんもついてなくてなんとなーく時給もらってなんとなーくかわいいかわいいおぢに言われてニコニコしてお酒飲んでるだけだもん。

こんなダメでお店でお金使ってくれないあたしにどーでもいいLINEとか自慢話(ほぼほぼ嘘だと思う)をしてくれるのはそーくんだけだ。

「えら🥺✨️りん今日も予定なくてしぬwまたごはんいこね!」

嘘つきの彼氏に騙されてあげててあたしってほんといいこ。いい子はどーでもいい子だってあゆが言ってたな。

「ぽむぽむ、、、」

これそーくんにあげよ。きっとインスタのストーリーに載せてくれるはずだ。それでこの子は300円の価値がある。

その日は早上がりで戦力外ホステスらしくてなんか死にたくなったりした。起きたらきっと大丈夫になってる。大丈夫にしなきゃ。

最近そーくんがたまに営業かけてくるようになって結局育てだったのかって萎えてる。あたしがもし石油王の愛人だったら、て思ったらなんか泣けてきた。

出勤前いつものようにガチャガチャを回す。

おねがい、おねがい、キティちゃん、そしたら言えるから。もう会うのやめたいって。

願ってもカプセルの中はバツ丸だった。

あたしのイマイチな夜のはじまり。

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