「難単」が連れてきたオアシス
「倫理という学問は暗記教科じゃありません」
大学2年生の春、講義室にしては小さめの教室で、目つきの鋭い教授は私たちを前にそう言い放つ。
私の大学生活を大きく揺るがせた、いや転換させてくれた講義だった。
それより1年遡って、遅咲きの桜の花びらが舞う中、
「あの科目カモらしいで」
出会って3日目の友人にそう話しかけられて、私は耳を疑った。
別の地方から来た私にとって見るもの全てが異世界だった頃だ、不思議なことがありふれていてもおかしくない。でもそれにしたって、、と思いながら、
「え、カモの授業なんてあんの?」
そう聞き返すと、目をまんまるにした友人はこう言う。
「何言うてんねん(笑)」
テレビで観ていたツッコミが返ってきた。これが関西の洗礼なのか、と少し感動した。
彼女の言う「カモ」は「簡単、楽勝なこと」で、私の想像した「カモ」は鳥の「カモ」だった。そんな完全に噛み合っていない会話に目に涙を溜めながら爆笑している友人が、
「ちゃうで、楽単のことやで、あやかちゃん」
そう伝えてくれた言葉に、またもや未知な単語がある。
「ラ、ラクタンってなに?落雁?砂糖の塊のやつ?」
そんなことを聞き返したら、目の前の友人はお腹を押さえてむせていた。
大学生は、簡単に単位が取れる科目を「楽単」と呼ぶのだということを、笑いすぎてアイラインがパンダみたいになっている友人が、荒い呼吸を混ぜながら教えてくれた。
そんな「楽単」を知って1年、大学にも関西という場所にも慣れてきた私に、あの「倫理学」が待っていた。
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