もうひとつのふるさと
電車内を聞き慣れた駅名がこだまする。
数日前、半年ぶりに以前住んでいた土地へと向かった。
ひとつ手前で降りた駅からゆっくり北へと向かう。
半年前まではイヤホンをはめて歩いていた街を、あえてイヤホンを外してマスクを外して深呼吸しながら歩いた。
毎月お金の算段をしていた銀行、ボランティア帰りに友人と晩ご飯を食べに来ていた中華屋さんにお好み焼き屋さん。彼と初めてご飯を食べた中華屋さん。入学式の前日、両親と弟と行った焼肉屋さんとラーメン屋さん、、、。
見慣れた街に思わず、視界がぼやけるほど涙を溜め込んでいた。
一瞬で昨日までそこにいた気がような気持ちになる。
それでも以前住んでいた建物には、もう新しい人が住んでいて、その街は私の知らない半年を積もらせていた。
そんな感慨深さと寂しさと懐かしさを味わいながら、よく通っていたパン屋さんに行った。
半年ぶりなのに、いつもの奥さんがいる変わらない景色に、落としそうになる涙をぐっと目に力を入れて止めた。
この街はあの時と変わらず呼吸をしていた。
数日経っても言葉にならなくて参っちゃうけれど、でも確かに私はここで生きていたんだなと、なんだかそう強く胸を打たれた気がするのだ。
足掻いて叫んで泣いて、そして飛び出した「当たり前」だった風景は、私の心を震わせる風景へと変わっていた。
ひとつ、ふるさとが増えたようなそんな気持ち。
またこの街にも「里帰り」をしようと、写真を見返しながら目を潤ませた。
かみつれ日記 2022.11.26
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