【くらしの東洋医学 鍼灸で元気に】マタニティライフと鍼灸
お腹の中の赤ちゃんと共に過ごす妊娠という期間は、女性にとってかけがえのない特別な時間であり、自身の身体をいたわりながら、子供が生まれる前に今しかできないことをやっておく期間でもあります。
しかし、お腹の中に新しい命を授かることによる女性の身体への影響は非常に大きく、赤ちゃんの成長とともに様々な体調変化や心身の不調を伴いがちです。
今回は、そんなマタニティライフ特有のお悩み・症状と鍼灸治療についてみていくことにしましょう。
なお、本編の後半では、マタニティライフ中の悩み・症状に対する鍼灸治療の具体例として、妊娠中のお腹の張り、貧血様症状(動悸・息切れ・疲労感)が鍼灸治療により改善した、当院での症例についてもご紹介をしていきます。
妊婦のみなさまへ東洋医学と鍼灸の素晴らしさを届けたい、マタニティーライフを楽しんでもらいたい、鍼灸あやかざりからお届けする、この秋のおすすめのトピックスです!
1.マタニティライフとは
マタニティライフとは、赤ちゃんを授かることから始まり、出産を迎えるまで期間のこと指し、妊娠の週数に応じて、次のように分けられています。
なお、妊娠週数とは、妊娠前の最後の月経が始まった日を0週0日とし、7日間で1週と数えます。
つまり、妊娠7日目は妊娠1週0日となり、妊娠14日目は妊娠2週0日となります。
インターネット上でも、妊娠週数や出産予定日を簡単に算出することが可能ですが、産婦人科医の診断のもとで正確な妊娠週数と出産予定を把握しておくほうが安心です。
妊娠超初期(妊娠0~3週の頃)
病院での正式な妊娠判定前、妊娠0~3週の頃を指します。
この時期は、妊娠していることに気がついていないことも多く、身体が熱っぽい、胃のムカムカ、体のだるさ、感情が乱れがちでイライラしやすいなどの身体の不調が続きがちです。
月経の遅れから妊娠検査薬を用いて妊娠したことに気づくことも少なくないようです。妊娠初期(妊娠4~15週の頃)
病院での正式な妊娠判定がされた頃、妊娠4~15週の頃を指します。
胎児の発育に伴って、母親の身体は徐々に変化をし始めます。
安定期前のこの時期は、気持ち、身体ともに不安定になりがちで、つわりの症状に悩まされることも少なくありません。
つわりは、以前に掲載した記事『つわりと鍼灸』にもあるように、一種の妊娠に伴う生理現象でもあります。また、鍼灸施術により改善可能な症状となっています。妊娠中期(妊娠16週~27週の頃)
安定期と呼ばれる時期に入る頃、妊娠16週~27週の頃を指します。
この頃には、下腹がぽっこりと出てきて、妊娠をしていることを体型変化からも実感できるようになります。中期の後半頃には、胎児がお腹の中で動くのを胎動として感じられたり、性別の判定が可能になります。妊娠後期(妊娠28週~40週の頃)
いよいよ出産が近づき、赤ちゃんと対面できる、マタニティライフも残すところあと少しの時期、妊娠28週~40週の頃を指します。
胎児の成長とともに、さらにお腹が大きくなってきて、自分の足元がみえづらくなってきます。
この頃には、一般的には、出産に向けて胎児は頭を下にした状態をとりますが、そのようにならない場合には『逆子』と診断がされます。
つぎに、このようなマタニティライフにおける、女性特有の体の不調にはどのようなものがあるかをみていきましょう。
2.マタニティライフと身体の不調
妊娠に伴う具体的な体の不調には、代表的なものとして、次のようなものがあります。
なお、体調の不調を全く感じない人もいれば、一日中を横になって過ごさないいけないほどのつらい症状に悩まされる人もいます。
症状には非常に個人差がありますので、過度に不安になったり深刻になったりすることなく、まずはかかりつけの産婦人科医で相談をしてみるとよいでしょう。
・はきけ、つわり(臭いづわり、涎づわり、食べづわり、吐きづわり)
・食欲不振
・身体のだるさ、倦怠感、冷や汗
・貧血のような症状(動悸・息切れ・めまい)
・眠気
・味覚、嗅覚の変化
・腹痛とお腹の張り
・頭痛
・感情の不安定さ(イライラ、落ち込み、うつ状態)
・腰痛
・膀胱炎のような症状(頻尿,尿意切迫,または排尿困難)
・便秘、下痢
・肌荒れ
・胸の張り、痛み
・おりもが増える
・熱っぽさ
・手足のむくみと冷え
・もの忘れ
3.西洋医学によるアプローチ
西洋医学で上記のような症状を治療する場合、妊娠中であることを考慮したうえで、医師の診察の他に血液検査、胎児の状態をしるためのエコー検査等が行われます。
治療の方法としては、症状の緩和のための投薬治療、水分や栄養不足を補うための輸液治療、症状が深刻で母子生命に影響を及ぼしかねない場合には入院による絶対安静、などが一般的に行われているようです。
また、妊娠中におこる様々な症状は、妊娠に伴う生理現象でもあることから、具体的な治療は行われず、症状が治まるまでの間を辛抱強く我慢し続ける、といったケースも少なくないようです。
4.鍼灸によるアプローチ
「妊娠中におこる様々な症状に対する鍼灸治療は可能なのか?」と疑問に思う方もいらっしゃるかもしれませんが、『2.マタニティライフと身体の不調』でご紹介をしたすべての症状の対して鍼灸は有効です。
その効果は、世界保健機関(WHO)も認めています。
参考リンク:公益社団法人 全日本鍼灸マッサージ師会
鍼灸では、西洋医学のように検査値に基づいて投薬を行い、各症状を抑え込むような治療は行いません。
鍼灸では「つらい症状が起こっている根本の原因」を正すことによって、妊娠中のつらい症状を治めていきます。
つまり、鍼灸治療は、妊娠中におこる心身の様々な不調を改善させて、健やかなマタニティライフをサポートするとともに、マタニティーライフを安産で終えてその後の育児生活へつなげるよう、はりと灸を用いてお手伝いをすることが可能なのです!
5.妊娠中のお腹の張り、貧血様症状(動悸・息切れ・疲労感)に対する鍼灸の施術例
次に、妊娠中のお腹の張り、貧血様症状(動悸・息切れ・疲労感)に対する鍼灸の施術例をご紹介します。
一度の施術で使うツボは1~2つです。施術時間は、休憩含めておおよそ1時間程度です。
なお、実際に施術をする前には、予め、詳しく問診をする必要があり、治したい症状だけでなく、他にもある様々な身体の症状(随伴症状といいます)、その人の体質や体格、その時の体調、施術をする時の季節、天気なども考慮する必要があります。
その上で、その人の身体全体の状態(脈、舌、顔色、身体の熱冷のかたより、身体の緊張、手足ツボの反応など)から、トータル的にみて、最も原因にふさわしいツボを選び鍼灸の施術をします。
そのため、症状や原因が同じでも、その時々で使用するツボも変えることが必要となります。
では、以下に具体的な施術内容をご紹介します。
【患者】30代後半女性、身長154cm、体重66kg。
【初診】202X年9月X日
【主訴】妊娠中のお腹の張り、貧血様症状(動悸・息切れ・疲労感)
【問診】
妊娠後期に入り、お腹が張るようになり、貧血様症状(動悸・息切れ・疲労感)が目立つようになってきた。
妊娠前は不妊治療で鍼灸治療をしていたが、妊娠が判明してからはつわり症状に悩まされ外出が難しく、鍼灸治療を受けるのは通院が困難となってしまっていた。
つわりの時期をのりきり、安定期に入る頃からお腹の張りが気になり始めた。
後期に入る頃には早産を防ぐために産婦人科で張り止めを処方されるようになったが、張り止めの投薬量を増やしてもお腹の張りがなかなか改善せず、眠りも浅く、睡眠不足からか、貧血様症状(動悸・息切れ・疲労感)が気になるようになってきた。
通院が困難なため、往診での鍼灸治療をしてほしいと依頼があった。
【初診時の症状】
・お腹の張りは時間帯関係なく気になる
・動悸・息切れ・疲労感が一日中強い
・家事をしようと動くとすぐに息切れと動悸がする
・できれば横になって寝て痛い
・過去に流産の経験があり、無事に出産できるか緊張と不安が強い
・産婦人科の診断では胎児の発育は今のところ順調
【特記事項】
・食欲は普通、空腹感あり
・排便の状態は良く、毎日出ている
・動悸、息切れに伴って汗が出ることはない
・夜中、上背部を中心に熱さを感じることがある
・喉がかわきやすい
・足が冷える
・腰が重くだるく、足がむくみやすい
【診断と治療方針】
以下のような複数の東洋医学的な原因が相互的に影響をあたえることで、妊娠中のお腹の張り、貧血様症状(動悸・息切れ・疲労感)を発症したと診断し、心身の緊張を緩め体内循環の停滞を取り除くとともに、腎気と血虚を改善することを中心にした処置を行う。
なお、妊娠中の鍼灸では、胎児への影響を考えて、過度な刺激はさけるようにする。
1.気滞
妊娠中は、子宮内に胎児がいることと、成長するにつれてその大きさが大きくなることから、母体の気血の循環停滞がおきやすくなる。
また、妊娠に対する不安と緊張感も、母体の気血の循環停滞を一層悪化させやすくなる。
気体は、妊娠中のお腹の張り、貧血様症状(動悸・息切れ・疲労感)をおこしやすくする。
2.血虚
妊娠中は、胎児の成長のために血が必要とされることから、子宮内に血が集まりやすくなり、母体の血が不足しがちになる。
血虚は、貧血様症状(動悸・息切れ・疲労感)とともに腹の張りをおこしやすくなるとともに不安感をおこしやすくなる。
3.腎虚
妊娠中は、胎児の成長のために妊娠前に比べると腎気(体内エネルギー)がより必要とされることから、母体で腎虚がおきやすくなる。
また、胎児を正常な位置に保っておくためのエネルギーが不足することで腹の張りや胎児がお腹の下のほうに降りてきやすくなり、場合によっては早産になりやすくなる。
腎虚は、貧血様症状(動悸・息切れ・疲労感)とともに腹の張りをおこしやすくなる。
【経過】
週に1回程度のペースで出産までの間、往診により治療を行った。
初診 鍼灸をした直後から緊張がゆるみ、呼吸のしやすさと腹の張が改善する。鍼灸直後には、3時間程度、ゆっくりと睡眠をとることができた。
2診 初回の鍼灸治療の翌日には、貧血様症状(動悸・息切れ・疲労感)が改善し、身体の動きが楽になった。腹の張りは数日間、気にならなかった。
3~診 同様の処置を繰り返して行うことで身体がとても楽になった。自覚だけでなく、家族やホームヘルパーの人からも顔色がよくなり歩いている姿がかわった、といわれるほどの変化だった。
マタニティーライフ中に家の片づけをしておきたいと思っていたが、身体がしんどくできていなかったが、身体が楽になったことで、少しずつではあるが、片付けもできており、よかったと思う。
その後は、出産予定日まで鍼灸治療を行い、出産後には、本人から、母子ともに無事に出産を迎えることができた、との連絡をもらった。
6.まとめ
今回は、マタニティライフ中の不調と鍼灸治療についてとりあげました。
東洋医学においても、マタニティライフ中の様々な不調に対して鍼灸によるアプローチが可能なことはご理解いただけたでしょうか。
妊娠中は鍼灸院への通院は困難になりがち、治療を受けたくてもできないといったケースも少なくありません。
そのような場合には、ぜひ往診治療を利用してみてください。
当院では往診治療を受け付けていますが、近くの鍼灸院へぜひお問い合わせをしてみて下さい。
今回はここまでとなります。最後までお読みいただきまして、ありがとうございます。
それでは、鍼灸でからだも心も元気になりましょう!
鍼灸 あやかざり
千葉駅5分 完全予約制 女性と子ども専門の鍼灸治療院
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