第25回近畿大学数学コンテスト参戦記(再現答案もあるよ)


はじめに

初めまして。カズノコ(X:@i25343729)と申します。この記事はAdvent Math Calendar2023の記事になります。競技数学をたしなむ人(競技数学er)が好き勝手数学等を語ろう!! という趣旨のアドベントカレンダーになってます。いろんな人が数学や数学の周辺について熱く語ってくださると思います。てかもうすでに面白い記事ばかり。

友人に「ここなら数学のことなんでも書けるよ」と誘われまして、今回参加させていただきました。とは言いましても、僕は普段数学をするものの(OMCなどの)競技数学界隈に疎いので何を書くか迷ってました。ただ、競技数学要素としては近畿大学数学コンテストに何度か参加しており、幸い今年の近畿大学数学コンテストで最優秀賞をいただきました。わーい。


なので振り返りも兼ねて参加記を書こうと思います。提出したものにかなり近い再現答案も公開します。思いのたけをつらつらと書いていたら思いのほか長くなってしまいましたので、読みたいところだけざっくりと読んでいただければと思います。また、文体もちょこちょこ変わっていますのでご容赦ください。別件になりますが、12月7日にもAdvent Math Calendar2023に(今度は数学色強めの)記事をあげようと思いますのでそちらもよろしくお願いします。

近畿大学数学コンテストとは

近畿大学数学コンテスト(近大数コン)は近畿大学理工学部理学科数学コースが毎年11月3日に開催している数学コンテストであり、今年で25回目を迎える歴史のあるコンテストになります。近大数コンのルール、特徴としては

・参加資格はプロ・アマ問わず無制限
・問題は高校数学で解ける問題から大学数学まで様々なテーマが出題される
・各問題にポイントが設定されており、合計3問を選択して解答する
・制限時間は5時間
・参加費用も不要、どこで解いてもお構いなし、参考書を調べるのも自由
・グループでの参加が可能。人数n人に対しポイントは1/√n倍となる
・合計ポイントの高い者から順位付けし、優秀者を表彰する

となっております。大学生以上が参加できる唯一の対面型数学コンテストというのが最大の特徴であり、去年は高校生から教授まで受賞する、まさに「無差別級数学バトル」の様相を呈しています。例年、問題は高校数学までで解けるA問題と大学以降の数学が必要かもしれないB問題に分けられており、A問題は6問程度、B問題は2問程度出題されます。ですので高校生でも十二分に戦うことが出来ます。また、記述にも重きを置かれており、解答の読みやすさや明快さも採点の対象になります。出題者の期待を上回る優れた答案にはボーナスポイントが与えられるらしいです。ここ最近は毎年100人程度が参加する盛況っぷりを見せています。楽しいよ。上記リンクには過去問25年分全て掲載されていますので問題を見てワクワクしてしまった人は参加をご検討いただければと思います。数学でワイワイするの楽しいよ。

また、第25回近大数コンの参戦記につきましては先駆者様がいらっしゃいます。参加者の空気感など、参考にしていただければと思います。

お前は誰だ

もっともでございます。僕は大学院の博士課程に在籍する学生で、普段は数学の研究をしています。専門分野はおおざっぱに言えば解析学(微分積分論)です。僕の詳細や、大学(大学院)の数学や数学科について知りたい人は、XのDMに質問とか投げていただければと思います。

コンテスト歴につきましては、第19,22,23,24,25回の近大数コンに出場し、第22回優秀賞、第23回最優秀賞、そして今回の第25回近大数コンで最優秀賞を受賞しています。受賞3回表彰なし2回と、近大数コンの酸いも甘いも知っている自負はあります。もともと高校数学が得意だったことに加え、大学での専門である解析学(微分積分論)に(比較的)精通していることが僕の強みです(自己分析)。

では以下振り返りをさせていただきたいと思います。

本番前

10月末に第25回近大数コンの事前申し込み(おそらく飛び入り参加でもOKだが、事前に申し込んでおくと安全)を済ませたものの、近大数コンに出場するかどうかは正直迷っていた。しかし、友人たちがこぞって参加表明をしたため、お祭りに行く感覚で参加を決めた。去年の第24回近大数コンで表彰なしに終わったことへのリベンジの気持ちもあった。とはいっても僕や友人たちの過去の戦績を見るに、近大数コンは結果の安定しない類のコンテストであるということも知っていた。それでも、近大数コンの問題は毎年面白いから、結果の如何にかかわらず今年も楽しめるであろうと思っていた。結果が出なくても作問の種になったら儲けものである。

コンテスト当日、持っていく参考書と昼食を適当に決め、朝8時に友人と待ち合わせして近畿大学へ向かう。睡眠は十分にはとれなかったが、大学院生には朝早いコンテストなのでしょうがないところである。道中、Xで近畿大学数学コンテストとサーチしていると、例年より遥か多くの人が参加を表明していてびっくりした。OMC勢を初めて認知した瞬間である。例年よりコンテスト慣れした人が増えるとなると入賞は大変であろうと思うと同時に、近大数コンのような良質なイベントが数学愛好家の中で広がりを見せていることに嬉しく思う。開始10分前には会場に到着するも、参加者が多すぎて会場の教室が2部屋に増える事態になる(結果的に参加者は102人であったようだ)。渡された封筒の中には参加賞のクリアファイルとレポート用紙があり、クリアファイルの中に問題と解答用紙が入っていた。朝10時、コンテストの開始が宣言された。

コンテスト本番

(注)以下、コンテストの問題についてのネタバレを含みます。
問題は以下のリンクにあります。

https://www.math.kindai.ac.jp/event/assets/mondai.pdf

また、再現答案はこちらです。再現答案と合わせて参戦記を読むとより面白いかもしれません。ちなみに答案の細かいところでの誤りは認識していますが、再現性を重視して修正は施していません。

1問目(問題1)

まずは人の少ない教室に移動してスペースを確保し、問題全体を見渡す。例年と異なりA問題とB問題の区別は無いようだ。ただ、高校数学で解ける問題が殆どであろうとも思った。去年いきなり高得点問題に突っ込んで爆死した反省から、手を動かせば確実に解ける問題1に手をつける。高得点を狙うにしても1問は簡単な問題で埋めるわけだから、ウォーミングアップも兼ねて解いてしまおうという作戦である。場合分けもそこそこ多く面倒ではあったが、1時間程度で答案を完成させた。余裕のある人はより読みやすい議論や答案を目指すこともこのコンテストでは大切な気はするが、今はそこそこにして次の問題へと向かう。

2問目(問題4)

次は解析(極限・微分積分)の力が問われそうな問題4に着手する。まずは(1)から。$${n!}$$の評価についての問題。$${\log x }$$の積分値を近似するのが自然な解法であるが、$${(n/e)^n}$$より更に精密な$${\sqrt n \, (n/e)^n}$$程度の評価を求められているため、$${\log x}$$ を短冊評価(0次近似)より精密な台形評価(1次近似)が必要になることは一目見て分かっていた。しかし、下からの評価を具体的にどう持ってくるか少し悩んだ。問題作成者の脳内をエスパーする必要がある。結果的には、接線を引いて$${1/k}$$の和の短冊評価と合わせることで得られることが分かった。(1)だけで30分くらいかかった。ぶっちゃけ(1)を誘導無しで解くのは相当しんどいと思う。メインディッシュの(2)へ。確率論の大数の法則や中心極限定理のような感覚から、$${ n}$$が十分大きいと$${{}_{3n} \mathrm{C}_k2^k}$$は$${k=2n}$$周辺で「ダマになりそう」、つまり集中しそうだなと感じる。直感的に説明すると、$${{}_{3n}\mathrm{C}_k2^k}$$を$${3^n}$$で割った値は「表の出る確率が$${2/3}$$のコインを$${3n}$$回投げたときに$${k}$$回表の出る確率」になり、投げる回数$${ 3n}$$を十分大きくすると表の出る回数の割合$${k/3n}$$は$${ 2/3}$$に近づきそうなので$${ k=2n}$$付近に集中しそうだなということである。なので$${n}$$が十分大きいときは$${k=2n }$$の周り以外の影響は無視できると考えると、収束値は$${\sin(k/n)}$$の$${ k=2n }$$での値、すなわち$${\sin 2}$$であろうと推察できた。具体的にはまず大数の弱法則みたいな補題を示して、その後に$${\sin}$$の連続性も合わせながら$${ε-δ}$$論法を用いて示すことにした。非常に解析の人らしいアプローチである。(1)を用いて補題の証明を行うわけだが、結果的に言えばこの方針であれば$${ n!}$$の評価は$${ \sqrt n \, (n/e)^n}$$ほど精密である必要性はなく、$${ \log x}$$の短冊評価で十分であった。それでも補題の証明を行う際の計算はぼちぼち煩雑であり、解答用紙2枚表裏4面の大作になったがなんとか証明を完遂できた。時間も問4のみで2時間半かかった。この問題の出来が結果を左右するためドキドキしながら解答を書いたことを覚えている。問1と問4で70ptあるので受賞はほぼほぼ手中に収めたかなと安堵する。

3問目(問題7,問題5)

残り90分で解答可能問題はあと1問である。ここからはより上の賞を狙う戦いになる。得点の積み増しのために、どれだけ簡単で低得点な問題でもいいからあと1問取りたいと考えていた。そうは言うが近大数コンの問題はどれも難しい。第22回の近大数コンではここで完答数が増やせず優秀賞止まりであった。正直3時間半ぶっつづけでコンテストに取り組んでいたため気力体力共に限界であったが、事前に持ってきたおにぎりを頬張りながら取り組めそうな問題を探した。問題7は無限級数の収束値を求める問題であり、初級だけでも解けないかと思った。ただ、$${∑1/(n^2-1)}$$を求めるには複素関数論が要るよなあ…という記憶があったため、詳しい解法を覚えていない以上断念せざるをえなかった。杉浦解析入門のような内容の厚い微分積分学の教科書を持ってくればよかったとまあまあ後悔した。実際、友人の1人は高木解析概論を参考にして問7に取り組んだようである。おそらく今回のセットの中で問7だけは例年のB問題に該当する問題であっただろうと推察される。

問題7を諦めたのち、問題5に手をつけた。30ptと最小点数の問題ではないものの、組み合わせの問題であるため実験してみればどうにかなるかもしれないと思ったためである。ただ正直なところ、どう実験すれば建設的なのかはじめのうちは全然分からなかった。手を動かしていくうちに、点Bを始点と捉えると漸化的に値を求められることに気づいた。そしてより大きいサイズで実験を続けるうちに、(点Bから見て)2行目からなる数列が1行目からなる数列の2項目以降の$${1/2}$$倍になっていることに気づいた。これをきっかけに、$${k+1}$$行目からなる数列が$${k}$$行目からなる数列の2項目以降の$${1/2k}$$倍であることが推測でき、一般項の予想に繋がった。証明としては数学的帰納法となるが、数学的帰納法の中に数学的帰納法の入る平面型の数学的帰納法は久しぶりに用いたと思う。楽しかった。問題5の解答を書き終わった時点で残りは15分であったため、解答提出場所に戻り見直してコンテストを終えた。全て満点ならば100ptあるため、少なくとも優秀賞、他の人次第では最優秀賞もあり得ると思い、心中穏やかではなかった。

コンテスト終了~結果発表

空き時間(問題2の感想など)

初の3問解答に高揚した僕は友達に最優秀賞ワンチャンあるでと言ってしまうほどに気持ちが高ぶっていた。解答回収から問題解説、表彰までに1時間の空き時間があるので友人たちと近くのごはん屋さんで遅めの昼食をとった。コンテスト後に友人とどれをどう解いたかワイワイ話す時間が一番楽しい。この時間のために近畿大学数学コンテストに参加しているといっても過言ではない。友人はみな2番を解いたと言っていた。聞いてみると、1つスイッチが壊れているならばスイッチもランプも6つであるため、スイッチ6つの張る空間が全空間になっているかどうかはスイッチ6つが基底になっているか(すなわち一次独立であるかどうか)を確かめればよいみたいだ。つまり問題2は線形代数の問題であったようだ。それはもっともであるし、線形代数だと見抜ける力を養わなきゃなあと思った。他には1,2,5,6などに手をつけたようで、5は形式的冪級数でもできるらしい。例年に比べて低得点の問題は比較的手が付きやすいようだったので、人数が多いことも考えると受賞のためには低得点の問題2問では足りないのかもしれないとは感じた。

結果発表

解説と表彰のために近畿大学に戻る。解説があった問題は問題4,5,6。解けそうにない問題6の解説があったのは個人的には嬉しかった。問題4の解説では背景知識として確率論のベルンシュタインの多項式近似定理を挙げられていた。思い返してみれば、確かに僕の解法は大数の弱法則からベルンシュタインの多項式近似定理を導く過程そのものであった。解説の先生が問題4の完全な正解は1人しかいないとおっしゃっていたので、もし問題4に間違いがあったなら表彰なしもあり得ると思うと途端んに緊張感が増した(冷静に考えると(1)が正解なら敢闘賞程度は十分ありえる気もする)。

解説の後、表彰である。例年、敢闘賞、優秀賞、最優秀賞の順番に呼ばれる(年によっては敢闘賞の前に奨励賞があることもある)。今年は敢闘賞5名、優秀賞3名、最優秀賞1名であった。正直今回は優秀賞以上か表彰なしかのどちらかだと思っていたため、序盤は平穏な気持ちで表彰式を過ごせた。どちらかというと友人の結果が関心の対象だったため、友人の名前を呼ばれたときは嬉しかった。最後の最優秀賞の表彰でも心の準備が出来ていたので呼ばれたときに挙動不審にならずに済んだ。それでも最優秀賞はやっぱりすごく嬉しかったし、ずっとニコニコが抑えられなかった。僕個人としては2度目の最優秀賞であるが、対面開催下での最優秀賞は初めてであったため喜びも一入であった。また、去年のリベンジが出来たという達成感もあった。最後に参加者で写真撮影をしてコンテストは終了である。コンテスト終了後、初めて会う人や久しぶりに会った人に話しかけていただいていろいろお話させていただいた。皆さんありがとうございました。今回お話しした人も、この記事がはじめましての人も、次回のコンテストなどでお話ししていただけると嬉しいです。

毎年楽しいコンテストを開催してくださっている近畿大学の教職員、学生の方々には感謝申し上げます。ありがとうございました。

コンテスト後

友人たちとゲーセンに移動して延々とゲームしてた。焼肉も食べた。近大数コン後の音ゲーは最高なんだよな!皆もDance Dance Revolutionしよう!体も動かせるよ!

受賞ラインの推測

合計ポイントの高い者から順位付けし優秀者を表彰するコンテストですので、以下の推測は今年のコンテストに対してのものであることにご注意ください。今年については参加者102名の中で受賞者は、敢闘賞5名、優秀賞3名、最優秀賞1名でした。皆の出来を見るに、簡単めな問題を3問解いた人が敢闘賞だったのではないかと思います。目安としては(65~)70~80pt程度ですかね。僕もきっと3問目のダメ押しがなければ敢闘賞(あるいは表彰なし?流石に45pt問題唯一正解での70ptなら表彰なしはない?)だったと思います。優秀賞は80pt+αくらいですかね。その一方でおそらく高得点問題を解答できたのはごく少数だったのではないかと思います。問題4の正解も僕(自称)1人みたいですし、問題7の50pt問題も正解者はいなさそうです。問題3や問題6も細かいところの論証が難しそうです(満点の議論を見てみたい…)。だから100ptで最優秀賞だったのだろうなと思います。会心のパフォーマンスを発揮して、その結果として最優秀賞をいただけたことに非常に満足しています。

問題4についての雑感

コンテスト本番の2問目で触れたように、この問題の背景にはベルンシュタインの多項式近似定理や大数の弱法則がある。しかしそれをそのまま適用することは出来ない。なぜならこの問での$${B_n}$$は$${{}_{3n}\mathrm{C}_k2^k}$$の$${ 0 \leq k \leq 2n}$$での和であって$${ 0 \leq k \leq 3n}$$での和ではないからである。つまり確率の言葉でいうと全事象ではないからである(条件付き確率になっている)。このギャップを埋めるためには$${ B_n}$$が$${0 \leq k \leq 3n}$$での$${{}_{3n}\mathrm{C}_k2^k }$$の総和$${ 3^n}$$とある程度同じ速さで発散することを示す必要がある。解説では$${ 2B_n \geq 3^n}$$を示せばよいと紹介されていた。これを示すには例えば$${ k \geq 0}$$について$${{}_{3n} \mathrm{C}_{2n-k} \geq {}_{3n} \mathrm{C}_{2n+1+k} }$$を示せばよい。$${ 2B_n \geq 3^n }$$を示せなくても、中心極限定理から$${ 3^{-n}B_n \to 1/2 \; (n \to \infty) }$$を導くことで示す方法もある。

ちなみに僕が補題Aの証明で行った評価に下からの評価も加えることで、任意の$${ \delta \in (0,2) }$$に対して

$$
\displaystyle\lim_{n \to \infty} \displaystyle\frac{1}{n} \log \left( \displaystyle\frac{1}{B_n} \sum_{k=0}^{[(2-\delta)n]} {}_{3n} \mathrm{C}_{k} 2^k \right) = \log \left( \displaystyle\frac{2^2}{2^\delta (2-\delta)^{2-\delta}(1+\delta)^{1+\delta}}\right)
$$

であることが従う。右辺の$${\log}$$の中身が1未満であることに注意する。これは確率論としては、平均から外れた事象の確率の減衰の速さが指数的であることを意味する。これを大偏差原理という。最近大偏差原理の勉強もやってたはずなのに気づいたのはコンテストから4日後だった…。まだまだ勉強した内容が会得できてないなと反省。今回のコンテストで大偏差原理を実感できたとポジティブに捉えるか。

最後に

どきどきしながら参戦しましたが、5時間楽しく過ごせたばかりでなく最優秀賞までいただけて非常に幸せでした。また、OMC勢など新しい層が近大数コンで盛り上がっていて非常に嬉しく思えました。近畿大学数学コンテストは様々な人と共通の数学の話題で繋がることのできる非常に良い機会であると思いますので皆さんぜひ参加してみてください。僕は今度はチーム戦で参加しようかなと考えているところです。繰り返しになりますが、今回お話しした人も、この記事がはじめましての人も、次回のコンテストやXなどでお話ししていただけると僕がすごく喜びます。てか話しかけます。大学(大学院)の数学や数学科について知りたいなど聞きたいことがあればお気軽に話しかけてくださいな。また会える機会を楽しみにしています。

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