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小説:雑食女子が走るP3「脱出40」
「そうだよ、全く問題ないよ」
私は繰り返し、強弁した。
尤も、今は喧嘩中。
それも、茜に恋人が出来たからだ。
否、
そんな雰囲気を私が感じ取っているにすぎないのだが…
それって、嫉妬?
あるいは、本当に茜を好きなのだろうか?
「二人はね、一時期愛し合っていたけど、今は別々な道を歩んでいる」
パパはそう遠くを眺めるようにして、語った。
二人。
詰まり、茜のママとその恋人を指すのだろう。
別々な道…
私と茜もいつかはそうなるだろう。
それは予感だ。
このまま、この首都圏に一緒に暮らしている未来予想図は、描けなかった。
私、
もしくは、茜。
少なくとも、どちらかは出てゆく。
そう、脱出するのだ。
そんな未来が薄っすらと見えていた。
「分かった、兎に角、危ないことはしないのよ」
パパはそう念押しした。
危ないこと。
その定義は怪しい。
が、
信頼されている。
それだけで十分だった。
そして、パパは一度、私の頭に手を置き、すっと撫で上げると、そのまま部屋を無言で出て行った。
大きな手。
女装しても、それは男の人の手。
温かく、
逞しく、
そして、確かな感触が残った。
寝よう。
そう思った。
明日から、大学受験用試験が始まる。
少なくとも、それには茜も参加する。
期間は1週間。
だから、茜が次回のデートをするとしても、それ以降。
それまでに何か手を打つべし。
そう決意すると、私は机から離れ、エアベッドに向かった。
形状記憶ベッド。
一番快眠に適した形状を記憶している優れもの。
プチ、
ベッドの灯を消すと、私はあっと言う間に睡魔に襲われた…
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