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笹原古民家言祝、ことほぐし

コレはほとんど高床式ですよ。風通し良すぎ。だから寒いんですけれどね…だから思ったよりも湿気がない…だけど標高1200メートルの家じゃないなあ…
とノモスの迫田さんが、不思議そうにしている。推理する人みたいだ。

この家の防寒対策が、断熱という根本からの改善ではなく対処療法で色々と付加されてしまっていることを、私は恨めしく思っていた。

苦笑しながらそれを聞いてくれたあと、「大正に建てられてこれまで対処されてきたこと」は決して悪ではなく当然のことなのだと話し始めた迫田さんからは、まさに家に関わった人間たちに寄り添う、もう一つの歴史がうねうねと蔓を張り始めるようで。

あんなに悪態をつきながらカーペット剥がしてごめんなさい。
家が、呼吸できなくなっているような気がしていたからなのだけど、実際にはこの家の湿度は低く保たれ、土にはちゃんと空気が入っている、と言われると、なるほど畳はベコベコだったけれど、下の土はもうもうとホコリが立つほど乾いていたし、カビ生えていないことをずっと不思議に思っていた。
家が本来の姿じゃなくなることなど、標高1200メートルの冬を生きて越す必死さは気にしていられなかったのだ。

畳の合間にぎちぎちに詰め込まれた布切れや、本来欄間があるだろう場所に貼られた障子紙や、開かずの扉だった(もしかしたら寒さからの防空壕だったかもしれない)部屋を開けたときのショックを思い出す。全てはきっと寒さとの闘い。必死だったんだよね。

このように建てられたところで何とか冬を越させてやりたいという人の想いがあってこのように付け足され、ここのおばあちゃんはそれに感謝したのではなかろうか。

と迫田さんの言祝ぎから始まって、ぐるっと検分が始まる。

このサイズ感は、普通古民家にある「一家が繁栄していくため」という役割を担っていないように見える。と迫田さんは言う。
気の強いおばあちゃんが独りで住んでてね、という近所の方の証言と重なっていく。

もう一つは空になった井戸の謎。
役目を終えたのだろうから、埋めるという選択肢もありますよと提案いただいたけれど、湿度の浸透圧(?そんなものはないか)もありそうに感じられ、埋めたくはないと思った。また満ちる日があるかもしれない。実際には積まれた石は湿っているので。でも底に落ちた塩は溶けもせず白く光っていた。

さて畳の上のカーペットには寄り添えたのだが、土の上に敷かれたカーペットは、防寒対策とは違う意図だったと思う。
昨日、上に生えている植物ごとばりばりと剥がしたわけなのですが、今日はまだ、陽のもとに突然さらされた土がびっくりしている様子で、でも明るい色に乾いていた。
南から蒸発して、北側の湿気も移動するかもねとうなづきあう。家の土台の、その下の営みが感じられるようだ。



穴に火を炊いて土地の水抜きをする方法もあるのだそうだ。納得できる。火が水を克するって実は水が火を克するより、今の人の体にもしっくりくる。

北側の傾きは、「これ以上行かない」ための手当てをすることにしたいけれど、気になるのはその傾きを生む一つの原因にもなっていそうな、「なぜこんなに高床式」。

昔の土の道から見ても敷地が低く掘ってあるかのように見える。床下に頭を突っ込むと、掘った穴に、大きな石をガラガラと積み、土台は穴の底に組まれ、地面から床まで殆ど1メートルほどもある場所もある。動物のフンから籾殻から鍋からビニール袋まで放り込んであり、どうしてこういうことになっちゃっているんだと。

貯蔵庫にしてたのかな

「なにか理由があるのかも知れない」
という問いかけを、何度も迫田さんからもらう。必要だったからそのようにしたのだという軌跡を辿っていくのは家を仲介にした昔の人との対話のようだった。


これで、カントリーボックス信州さんのほうでも動いてくださっている解体や、水道開栓、電気系統チェックも噛み合って家の修繕が大きくまわり始めた。

  1. 床があるうちに、天井貼られたベニヤを剥がしてみる

  2. 電気系統を1度撤去してもらう

  3. 好きなように電気を引いてもらった上で

  4. 床板を番号を振ったうえで全部外し、床下の土をならしたり、たわんだ大引きに束を立て直し、平らにする。全部屋。

  5. 開かずの間の内装を取り外し、壁も抜いて四角いシンプルな部屋に戻す土間と床の境を決める

以上を指示くださって、「お腹すいた!」とひと吠え後、「応援してますから!僕もう見たんで、何かあったら相談してもらえたら答えられると思います」と、

検分の中味のいっぱい加減に比べえらいさらりと左ハンドルの運転席に座り、フィシスに訪ねていった時は我々めっちゃ吠えられたふーちゃんなど、もうこっちを見つめもせず(笑) 後部座席でくつろいでて、

わたしは見送ったあとしばらく消化に呆然とし、
冬にさらったどぶ土をシャベルで移動し始めたところ、こて絵めぐりの「ちの旅」の皆さんが立ち止まってくださったり、お向かいさんにお声がけいただいたり。

住むんですか?ときかれて、いいえ、イベントスペースにします。ときっぱり答えられるようになった。

ここの役割とは。




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