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暴 (水聴庵のこと。)

住んでいる富士見町からふた町蓼科よりに行った茅野市湖東笹原というところに、6畳4間の小さな古民家を直している。
なんやかやとたらい回しになって20年以上は空き家だったのだろうか、2022年にわたしが入った時には1995年のカレンダーが壁にかかり、そこに昨日まで誰かが座っていたかのようにこたつの周りに座布団が置かれ、干乾びた調味料が台所に据えてあった。
プロフェッショナルの力をかりてリノベーションしてみろとオーナーである父から2023年丸投げされて、富士見町に移住したあと人づてに必死に大工さんを探したが手が空いている方はいなかった。
父が望んでいたのは有名な古民家カフェのような、漆喰が白く輝く古民家再生であったが、もともと土壁仕上げのその家にわたし自身がなぜか執着し、大工さんの手が空くまで、または手の空いた大工さんが見つかるまで、自分の手でスケルトン状態にすることにした。
最初は電動工具を持っていなかったので、何を剥がすにもバールとねじ回しと金づちで行ったからとても手の痛い解体だった。

人の解しに従事している身には、解体しながらその作業が、映像で見た人体解剖と重なり、コルセットのように固定されていたベニヤや紙を剥がすと家が息を吹き返すようで新鮮だった。

ほぐすとは、理解すること。ほぐすとは、分けて整理すること。ほぐすとは、本来その組織が持っている力を解放すること。

手の中で、足のほぐしと家のほぐしは同じことであり、ただ、後者は埃やネズミのフンなどかぶりながらのワイルドなものだった。

2023年7月からはじまったほぐしは
12月のうまやの解体撤去をもってひと段落し、2024年からはいよいよ建てなくてはいけなくなった。
足をほぐしたことはあっても、建設したことはないのでわたしは困ってしまい、垂直も水平も持たない傾いた家を目の前にしては途方に暮れるようになった。

途方に暮れながらも地元の特産品生産の活動に関わってたら、1月に地元の大工さんとの出会いがあり、2月に初めてプロフェッショナルの手が家に入った。ジャッキで水平を、ロープで垂直を引っ張られ、やっと家に直角ができた。

3月に下水の配管をし、そのあと、水洗トイレの位置の変更をした。ロスした資金を少しでも節約するために2度目は自分たちで地面を掘った。
5月にご近所さんへ遊びに来た建築を研究する社会人学生さんたちと出会いがあり、8月に東京でこの家の用途とディレクションについてのワークショップと、8月末に「仮開き」をするための整備を手伝っていただいた。

秋冬が迫る中、水洗トイレ棟が建ち、壁をつくり、薪ストーブが付いた。

12月に電気工事があり、水道に巻かれた電気コイルに熱が通って、凍らなくなった(上水道だけ)。40Aで契約が進んでしまっていたので、さきほど中部電力からハチドリ電力に変える手続きをし、試しに来週中部電力に契約アンペア変更の電話をする。

リフォームと言うにはあまりにもマイナスからのスタートで、なおかつ材料費を抑えるためと、そのものへの愛着があって解体後の古材をそのまま使って建てているため、プロフェッショナルの力を借りにくい家だ。
水回りの位置を決め切らないうちに施工してしまい2度の工事となってしまったことは悔やまれるが、インフラに関しては新築同然の手順だったことを考えると、勉強だったのだと納得がいく。「次」は全体の流れが見えるのできちんと決定しながら、自分がスケジュールを引っ張っていけるだろう。

今に、かかった外注費も公開しますね。

しかしながら。
水まわりが入った家というのは、生命力が入った人体のようなもの。前の冬は悲しみに暮れるように黙りこくっていたくせに、この冬は、家が暴れるようになった。新暦正月を放っておいた詫びとともに今日ドアを開けると、トイレの排水管が凍ってふさがっており、通水した水が床にあふれていた。そして洗面台のS字排水管は中の水が膨張して洗面器直結の管から外れている。
わあ、わあ、としか言えない自分が情けなく、家を掃除するための古い施術バスタオルを床にぶん投げて、溢れる水をすくって捨てながら、お湯を入れて氷を溶かす。
床にあふれた水は拭き取るそばから凍っていって、もうどれだけ野外なのだと嫌気がさした。申し訳程度に風よけをと打ち付けていた障子を外してすべての隙間を面戸で埋める。
あなたは雑だが手早いといつか言われたのは誉め言葉だと解釈して、雑に手早く一気に風を防ぐ。

もっと早くにこの応急措置をすべきだった。「風流もいいが、冬がきてしまうよ、ベニヤをばっと張ってしまいなさい」と地元の方に言われたのが秋。

だから、この家は当初ベニヤで覆われていたのだ。冬に暴れる家を抑えるために、広い合板で一気に風を防いでいたのだろう。
カバー写真は、2023年うまや解体前


1年後

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