恋愛経歴から振り返る テイラー・スウィフトが作り上げたおとぎ話の世界
2023年から始まったテイラー・スウィフトの『The Eras Tour』。2024年の最初の会場として2月7日-10日に東京ドームで4日間の公演が行われ、5年ぶりの来日公演ということもあり大きな盛り上がりを見せた。1年9ヶ月にも及ぶメガ級ワールドツアーに世界中が熱狂、東京ドームには公演の行われない中国や韓国からも多くのファンが集まった。2023年には年間ベストアーティストに選ばれ、来日の前日にはグラミー賞最優秀ポップアルバム賞を受賞。常に注目を集め続けるテイラーだが、なぜ彼女の音楽はここまで大きな評価を受け続けているのか。
おとぎ話は永遠に
彼女の曲を語るには豪華なボーイフレンドたちの存在を無視することはできない。彼女の曲はほとんどに男性の影が見えると言っても過言ではなく、彼女を追いかけると長い恋愛リアリティーショーを見ているかのような感覚に陥る。恋人との関係をそのまま曲のネタにすることから批判を受けることも少なくないが、一方で彼女がこれほどまでの人気を集めた理由はここにある。時代が変わっても人々の乙女心は変わらずあるものだ。彼女のように評価を受け、人々のアイコンとなる女性アーティストは新たに生まれ続けるが、社会へ強いメッセージを投げかけるアーティストの多くは時代の流れと共に姿を消してゆく。その点、テイラー・スウィフトの歌は曲調が変わっても1人の女性が経験する人生を素直に描き続けている。彼女の恋の進展を多くの人が見守り、のちに物語として曲と共に語り継ぐ。2008年に発売されたアルバム『Fearless』を聴いて当時恋愛をしていた少女たちが大人になり、彼らの子どもたちが同じ曲を聴いて育つ。数年後には大人になったテイラーが書いた曲が心に響くようになるのだろう。いわば彼女は永遠に女の子の憧れのプリンセスなのだ。ギターと歌を愛し愛情深い家族のもとで育った少女が、王子様との出会いを夢見て美しい歌を奏でる。ホワイトブロンドの巻毛と青い目を持った美しい少女はおとぎ話のプリンセスそのものではないか。
そこで今回は彼女の恋愛ソングと過去の恋人たちに関する考察の一部を振り返りながら、彼女が作り上げてきたおとぎ話を振り返ってみることにする。
大人な男性に憧れるティーンネイジャーの淡い恋
2006年にデビューしたテイラー・スウィフト。そのデビュー曲となった『Tim Mcgraw』は彼女のお気に入りだったアメリカのカントリー歌手ティム・マックグロウ(★1)の名前をそのままタイトルにしている。「お気に入りだったティム・マックグロウの曲を聴いて私のことを思い出して」という可愛らしいメッセージと共に高校時代に交際していた先輩との別れを切なく歌った曲。数学の授業中に曲を思いつき、彼女をサポートしていたソングライターのリズ・ローズと20分で書き上げたという天才エピソードから曲を作る感性は当時からピカイチだったことがわかる。しかし歌詞を見るとどこにでもいる素朴な学生らしい恋愛観が詰まっていて、この曲を聴きながら恋人を思う若者たちが今も昔もたくさんいるのだろうと想像ができる。
2007年に発表した曲『Teardrops on my guitar』では、学校のクラスメイトDrew Hardwickへの片思いを歌にした。歌詞の中にはDrewの名が何度も登場し、10代の少女らしい純粋な思いがストレートに歌詞にされている。テイラーは後にDrewへの片思いの記憶を何度か語っており、一目惚れをしたこと、隣の席になったこと、彼には別の思い人がいて自分は友達にしかなれなかったことを赤裸々に明かしている。本人に直接伝えることはできなくても、躊躇なく世界中の人々に聞かせることができるところが彼女らしい。どストレートな歌詞と相手の名前を歌詞に載せる大胆さはこの頃から変わらない。むしろ若気の至りで相手の名を歌ったことが今の彼女の基盤を作ったのかもしれない。
2010年の『Fearless Tour』でこの曲を披露した際には彼について語るスピーチから曲が始まり教室をモチーフとしたステージを用意するなど魅力的な世界観を作り込んだ。美しいドレスを着た少女が、学校の同級生に向けて告白のような歌詞の曲を歌う演出。うっとりする観客の様子からも分かるように、今でも人気のあるステージの一つとなっている。
スターの恋に安定はない
世界的歌姫となり20歳でグラミー賞年間ベストアルバム賞を最年少で受賞。そんな彼女が男性たちから放っておかれる訳がない。彼女が恋人と破局するたび、すぐに新たな男性がやってくる。この頃の彼女の恋愛は安定とは無縁で短期間の情熱的なものだった。多くのスターと数ヶ月間の短い交際を続けていたテイラー。そんな彼女から「テイラーが2度とよりを戻したくない男」の称号を得たのが2010年から交際していたジェイク・ギレンホールだ。
何度も交際と別れを繰り返した2人だが2011年末に完全に破局、1年間の交際だった。そんな彼との別れを歌った曲が『We Are Never Ever Getting Back Together』だ。10歳年上の恋人ということもあり、テイラーにとっては大人な男性との背伸びした交際であったがテイラーが明かした別れ際のエピソードは衝撃的。MVは喧嘩を繰り返した2人の関係、別れのきっかけとも言われるパーティーの様子までが再現されている。レコーディング室でジェイクとよりを戻すのかと聞かれたテイラーが「絶対よりを戻したりしないんだから!」と言ったことをきっかけに、そのまま25分で完成させてしまった本曲。気持ちが高まっている時に勢いで書き上げただけあって彼女の鬱憤がストレートに伝わる。
真面目な少女が魔女に変身、暗闇からの復活劇
2016年夏以降公の場から姿を消していたテイラーの復帰作となったアルバム『reputation』。これまでの彼女の印象とは離れた悪女の誕生は彼女の復帰を信じてきたファンにとっては完璧すぎる展開。悪者に虐められた可哀想な少女が魔女となって現れる、まさにおとぎ話のようなストーリーに心を躍らせた。
このアルバムの収録曲でも彼女は一貫して自分の話をしている。アルバムの趣旨としては、近年社会問題となっているSNS上での悪口や個人の評判を落とす行為に対する非難がある。だがアルバム内で描かれていることは全て彼女自身の実体験に基づくストーリーだ。当然そういった曲に対して快く思わない人もおり、彼女が賞を受賞するたびに社会的なアーティストに賞を与えるべきだという主張が生まれる。確かに彼女の曲には明らかな社会的なメッセージや人々や扇動する力強さはない。しかし曲の再生回数や成績を見る限り、社会的な力強さだけが音楽の評価に値するわけではないことは明らかだ。彼女の曲を聴く人々は彼女のストーリーを聴くことに熱中し、先の展開を予想しながら物語の続編を待ち続ける。ラブストーリーの途中で急に社会批判や政治的なメッセージが出てきたら誰だって戸惑うはずだ。たとえ物語の裏にそのような意味が含まれていても聴いた人の想像に委ねる、自身では表面に出さないことを彼女は徹底しているのではないだろうか。このアルバムには真面目な少女が魔女になるまでの物語が鮮明に描かれている。
収録曲『Look What You Made Me Do』のMVでは魔女になった要因である噂話を作ったと言われる人々、カニエ・ウェスト、キム・カーダシアンやケイティー・ペリーらが登場。そんな彼らと共に登場するのが2016年5月から3ヶ月間交際していたトム・ヒドルストンだ。
錚々たるメンバーと共に曲のネタとされたトム・ヒドルストンだが、テイラーのファンにとっては愛すべきキャラクターでもある。彼とテイラーの関係が知られるようになったきっかけはビーチで撮られた2人の写真である。「I♡T.S.」と書かれたタンクトップを着たトム・ヒドルストンの写真が公開されるとたちまち話題をさらった。売名行為だという批判もあったが、のちに仲間内間のジョークであったと釈明。しかし、このタンクトップはテイラーと彼女のファンのネタとして長い間消費されることとなった。トムがファンから愛される理由として彼の真面目な性格が挙げられる。これまで人気のあるプレイボーイたちとの関係が話題になり続けていたテイラー。恋人がいた彼女に恋をして別れた瞬間を狙ってアプローチ。静かな恋愛を望んだテイラーと自慢の恋人を世間に公にしたかったトムの交際期間は短かったものの、タンクトップの件といい彼の溺愛ぶりか感じられる場面は多い。破局後もインタビューの場でテイラーとの関係について、真剣に交際していたと語っているトム。2人の関係は肯定的な話題ばかりで、悪い印象を持つファンは少ないだろう。MVでは彼がきていた「I♡T.S.」タンクトップを真似た衣装を着用したダンサーたちが登場。他のメンバーと比べて悪い印象がないだけに少し可哀想にも思えてくる。
しかし2019年のアルバム『Lover』の収録曲『Cruel Summer』で彼女は再びトムとの関係を歌にする。テイラーの最高傑作の一つとも言われている一夏のロマンスと禁断の愛を描いた曲。この曲の有力な考察の一つが、トムと恋仲にありながらも次に恋人となるジョー・アルヴィンに惹かれていくテイラーの心境を歌っているというものだ。ジョーとテイラーが出会ったのはトムがテイラーに恋をしたのと同じ日、2016年のMETガラ。テイラーはシングル曲『Dress』の曲中でジョーとMETガラで出会った日のことを歌っている。これが本当なのであればトムにとっては悲しすぎる展開。それでも彼女を支持するエピソードを語っていたトムは本当にいい恋人であったようだ。
トムと破局後、2016年9月から2023年の春まで交際していたジョー・アルウィン。テイラーが公の場から姿を消した2016年5月に出会い交際を始め、心身ともに疲労していた彼女を支え続けていた。『reputation』の制作時期に共にいたことを考えると彼女を強く鼓舞する存在で合ったことは明らかだ。
今年2月6日のグラミー賞授賞式でスピーチをしたテイラーは4月に新作アルバム『The Tortured Poets Department』を出すことを発表した。音楽関係者はこのアルバムにはジョー・アルウィンとの関係を歌う曲が収録されるはずだと予想している。『The Tortured Poets Department』は直訳すると「悩める詩人部門」。ジョーが友人たちと作ったチャットグループ「The Tortured Man Club」に由来することは誰が見ても明らかである。長い期間交際し、テイラーが苦境に立たされていた時期も共に過ごしてきた2人。6年という長い期間を共にしただけあって彼女にとってもファンにとっても、ジョーの存在は大きい。今回のアルバムがジョーとの交際を歌った曲になるのであれば、これまでの短い交際とは違った、濃密な曲が収録されることになるはずだ。
前作『Midnights (The Late Night Edition)』(★2)に収録された曲『You’re Losing Me』はジョーとの破局を歌っているとも言われており、その歌詞からはテイラーがジョーになんらかの理由で失望し別れを告げたと言う状況が伺える。
結婚秒読みとまで言われていた2人の別れは衝撃を与え、2人に何が合ったのかと憶測が飛び交った。新作でジョーとの関係を歌うとなるとそこで事の詳細が明らかになるのだろうか。ジョーとの破局直後、The1975のボーカル、マット・ヒーリーとの交際が噂されたテイラーウィフト。この報道にジョーは大きなショックを受けたはずだという証言もあるが、ジョーの関係者は今後テイラーがどのような曲を出してもこちら側が反応することはないと述べている。それでもジョーの反応に注目が集まる理由は、新たな恋人トラヴィス・ケルシーとの交際が世界中から大きな注目を集めているためだろう。
プリンセスになる準備はできている?彼女が城を建設する日
新曲のリリースやツアーが行われるたびに話題となるのが隠されたイースターエッグだ。『The Eras Tour』で注目されたのは『Bad Blood』のパフォーマンス中に流れる家を燃やす映像。『Lover』のMVで登場したこの家は、各部屋が彼女のこれまでのアルバム9つに登場する恋人の家であった。
上から、
『Reputation』
『1989』『evermore』『Lover』
『Fealess』『folklore』『RED』
『TaylorSwift』 『speak now』
をモチーフとした部屋。MVの中ではテイラーが恋人と過ごす日常や喧嘩をする様子が部屋を覗くような形で映し出される。ジョーとの安定した関係を象徴する存在でもあった恋人の家が炎に包まれ完全に消失する。ツアーが始まった当初はまだジョーとの破局が報道されていなかったがSNS上では破局したことを予想するファンの投稿が多く見られた。『Lover』と名付けた曲で空き部屋のない恋人の家を作ったとなると、ジョーとの結婚を真剣に考えていてこれ以上恋人の家を作る気がなかったことが伺える。そんな大切な存在であったジョーとの破局で気を落としたテイラーを手入れた新恋人はどのような人物なのか。
新恋人のトラヴィス・ケルシーはカンザスシティ・チーフスに所属するNFL選手。チーフスのホームであるアローヘッドスタジアムで『The Eras Tour』の公演が行われ、テイラーが訪れた際に、彼女の大ファンだったトラヴィスが自身の試合に彼女を誘ったことから交際が始まったという。テイラーとの交際以前はまだまだ知名度のなかったジョーと比べると、トラヴィスはまさに誰もが認めるスーパーマンのような男性である。強く屈強な体を持ち、国民的スポーツの世界で活躍する。そんな男性と世界の歌姫のカップルは世界中が注目する最強の組み合わせだ。
『The Eras Tour』のアルゼンチン公演では会場に駆けつけたトラヴィスに向けて『Midnights』に収録されている人気曲『Karma』の歌詞の一部を変えてメッセージを送った。ファンの間でも人気があるこの曲の歌詞について、テイラーは「正しいことをした結果として、自分の人生が本当に誇れるもので幸せなものだと思える感情が元になっている」と語っている。
2月7日〜10日に行われた東京ドームでの公演。10日の公演翌日にラスベガスで開催される第58回スーパーボウルに恋人が所属するチーフスが出場するということもあり、試合会場に間に合うのかという話題で持ちきりだった。在日米国大使館は
「 Statement from the Embassy of Japan on Taylor Swift’s Reported Travel from Japan to the United States Are you ready for it? 」
という書き込みともに余裕を持って到着するという旨の異例の声明を発表。「Are you ready for it?」はファンであれば誰もが『…Read For It?』の歌詞フレーズであることに気がつく、遊び心のあるメッセージだ。SNS上では 恋人の大一番を控えたテイラーが、最終日の公演を2倍速で進めるGIF動画が作られ拡散された。流石にチームも彼女の人気ぶりを無視することは出来ないようだ。スタジアムにはテイラーの曲が流れ、試合中のライブカメラは定期的に試合を鑑賞する彼女の様子を写した。
チーフスの選手以上に、観覧席で勝利を喜ぶテイラースウィフトの写真が拡散された状況に、SNSのニュースでは「テイラースウィフトがスーパーボウルで勝利」と言う見出しまでつけられた。彼女が勝利の女神となったのか、憧れの恋人にトラヴィスが最高のプレゼントを与えたのか。いずれにしろ、2人にとって今回の勝利はいい意味で大きな意味のあるものになったはずだ。これまでNFLに関心がなく試合も見たことがなかった若い女性達が勝利を祝う投稿をあげるなど、これまでにない盛り上がりを見せた。
フットボール選手と交際するテイラーの姿は彼女の定番曲『you belong with me』のMVとも重なる。テイラーが一人二役を演じたことで有名な曲だが、MV内で地味な少女が恋をする憧れの青年は学校で人気者のフットボール選手だった。青年と美しいチアガールがグラウンドで見つめ合う場面は、スーパーボウルでトラヴィスとグラウンドに立つテイラーの姿まさにそっくりだ。
アルゼンチン公演に駆けつけたトラヴィスが『The Archer』を歌うテイラーに客席から「WE WILL STAY」とメッセージを書いた紙を掲げて見せていたのも、MVの青年も窓越しにメッセージを書いた紙を見せていた場面と重なる。
今回の『The Eras Tour』で家を燃やしたことは、完成した幸せな家がジョーと破局をきっかけに払拭するべき過去の記憶に変わった。また、6年という長い恋愛が終わりを迎えたことで、彼女の人生の第一章が幕を閉じ、第二章となる新たな人生の始まりを決意したと捉えることができるのではないか。
そろそろプリンセスとなって新たなお城を築いてもいい頃だが、第二章こそハッピーエンドとなることを願うばかりである。
最後に
なぜテイラー・スウィフトなのか。
こんなに簡単な言葉でまとめたくはないが、社会に溢れかえっている目を背けることを許されない課題と向き合い続けることに対する疲れの表れだと考えることができる。音楽や映画といったあらゆるエンターテインメントが政治や社会課題と絡めて語られる現代。音楽を利用して男女平等を叫ぶのもいいけれど、元彼との思い出話とか女友達との喧嘩話とかそういった個人的なストーリーを共有する存在が評価されるのは自然なことに思える。アメリカでは音楽業界、スポーツ業界だけでなく政界からも影響力のある存在として一挙一動が注目されているテイラー。だが彼女自身がそういった影響力を望むことはなく、ただ家族や友人、恋人との時間を愛し曲を書き続ける。そんな彼女の語るストーリーに人々は無性に惹かれてしまうのではないか。
もちろんここまでまとめてきたラブソングと彼女の関係はファンやメディアの憶測であり、公式から出ているものではない。しかし、新曲が出るたびにその裏にある物語を考察して、おとぎ話を作り上げる彼らの熱はこれからも続いていくのだろう。もちろん私もその一員として彼女を追い続けるつもりだ。
★1 テイラーとティム・マックグロウは後に『Highway Don’t Care』という曲で共演し、交流を続けることとなる。
★2 『Midnights』の限定デラックスバージョン。『The Eras Tour』の会場限定盤として発売された。
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