ギャルリー・ワッツの人々@青山 フランスの週刊フードニュース 2023.02.03
今週のひとこと
日本からパリへ戻ってきて早2週間が経とうとしています。1月もすでに終わって、2月に突入してしまいました。なかなかページを更新ができないでおり、申し訳なく思っております。ただ、いつも、斬新な情報にはアンテナを立てておりますので、お届けは怠らないよう頑張りたいと思います。
今回の日本では、昔からの友人と旧交を温めることのできたひとときもありました。
大学卒業後に某企業に1年勤務した、そんな時期がありました。懐の深い、とてもいい会社で、入社来、楽しい日々ばかりで辞めるとは思っていなかったのですが、人生自分のために生きなさいという言葉を上司の方からいただいて、長年の夢だったフランス留学を実現。皆で笑顔で送り出してくれたという思い出が今でも脳裏に焼き付いています。
その企業で同期だったのが、川﨑詩野さん。青山に「ギャラリー・ワッツ」というアート作品の展示スペースを、お母様の淳与さんと一緒にオープンされ、彼女も早期に退職しています。退社をしても、我々同期は仲良く、いまだに親交があるのですが、私は遠方に住んでいるため、皆にはなかなか会えずじまい。それを、面倒見よく、皆から愛される詩野さんが、私たちを上手に纏めてくれています。
その詩野さんと、パンデミック来、久々の再会を果たすことができました。ご縁というのは、本当にありがたいもので、長いブランクをすっかり取り去ってくれ、喜びもひとしおでした。ただ1つの、心の痛みを除いては。
2017年の冬から私の父はリンパ腫を患っており、一度寛解したものの、再発も経験して今に至るのですが、詩野さんは、お母様の淳与さんが、コロナ禍において病気が発覚してしまった。淳与さんはあまりにお元気だっただけに、病気は寝耳に水だったと聞いて、私自身、彼女の存在に常に励まされてきただけに、ショックは隠しきれず、詩野さんとお互いの心持ちを分かち合ったことがありました。
淳与さんと詩野さんは、親子だけれども、お互いにファーストネームで呼び合い、お二人ともすべてのセンスが個性的で、立ち姿が美しく、感性が優れている。切磋琢磨しあっているという関係がとても素敵で、羨ましいなと思ったこともしばしばでした。
青山のあるアパートの一室にある「ギャルリー・ワッツ」は、2人の子供を育て上げたあとの淳与さんの、第二の人生のステージでした。全身全霊で創作活動に挑む若い作家さんを応援したい。60歳でその使命に突き動かされ、1999年、ギャラリーをオープンしたという、一人の還暦を迎えた女性が奮起して始めるには難しいことをやってのけた。輪が2つで「ワッツ」。人の輪が繋がって、新しい世界を作り上げていく。そんな思いが込められた、空間でした。
淳与さんは、詩野さんと一緒にフランスに時々いらしては、アーティストを発掘したり訪ねたり。単身で留学されたこともあり、行動力とエネルギーに驚いたことも。しなやかでかつパワフルな女性でした。
病気が発覚して、天に召されるまではあっという間だったため、パンデミックがおさまったら必ず会いにいくという夢を果たすことはできませんでした。しかし、生前中から出版が決まっていたという彼女自身の本を、今回、詩野さんからいただきました。「60で人生のやり残しに気づいたから 80代の今が最高と言える」というタイトルの本。
歴史家として知られる磯田道史さんもこの本に寄稿されています。東京の真ん中でくすぶっていた頃の磯田さんが、淳与さんに魅せられ、週に数日も「ギャラリー・ワッツ」に入り浸っていたことを赤裸々に語っています。「ボクの東京の母、川﨑さんの生き方は素敵です」と帯にも添えているように、私にとっても思いは同じ。
2019年の確か夏。フランス生活が四半世紀になった私に「人生が面白いのはこれからよ! 面白いように、点が線に繋がっていくの。文さん、人生を謳歌しなさい」と背中を押してくれた彼女の笑顔は忘れられません。彼女の笑顔で、どれだけの人々が力を得たことでしょう。
今回、この本を携えてパリへ。淳与さんの珠玉の言葉や生き様が、いまもここに。たくさんの方々に、読んでいただけたらと思います。
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美食大国フランスから。週刊食関連ニュース
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