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フランスから、食関連ニュース 2020.06.09

フランスにおける旬でコアな食関係のニュースを週刊でお届けします。

今週のひとこと

テレビ局Artéで、オリヴィエ・ジュリアン氏収録の『オーギュスト・エスコフィエ、あるいは、近代ガストロノミーの萌芽』が放映されました。近代フランス料理の父と呼ばれるオーギュスト・エスコフィエの自伝のドキュメンタリーでした。時代背景とともに、いかに、エスコフィエがフランス料理の革新を図り、今に繋がるガストロノミーの基礎を作っていったかということを、パリの修行時代から、セザール・リッツとの出会い、世界中にフランス料理を伝播させたその貢献について、料理人のティエリー・マルクス氏、イヴ・カンドボルド氏、ミッシェル・ロット氏などの声も拾いながら、細かに再現された興味深いドキュメンタリーでした。エスコフィエの功績は、カレームの料理を研ぎ澄ませたという仕事以上に、その時代背景と切り離して語ることはできない、ということを、改めて感じさせられました。1846年の生まれで、1935年逝去。まさに産業革命の申し子だったのです。技術革新が相次いで、蒸気機関の開発による産業の発達、さらに鉄道や蒸気船など移動手段の発達も加わり、人々の生活様式も根源から変わり、一部の人々の豊かさが急激に成長した時代でもあったでしょう。自動車や飛行機が生まれたのもその頃で、軍事の装備も様変わりした頃。

エスコフィエが現代におけるフランス料理を酩酊と無秩序から救い、規律をもたらしたという表現もありますが、彼が行ったことは、時代に準じたまさにフランス料理の革命でもあったのです。例えば、レストランの厨房のブリガード制。つまり、冷製前菜、アントルメ、ソース、ロースト、パティスリーなど、料理作業によって部門別にし、責任者を割り当て、その上に立つシェフ、スーシェフを任命して料理に当たったのは、1日に何千食も完璧に出さなくてはならない高級ホテルにおいて、大量生産の始まった工場の仕組みを真似たものとも思えますし、セザール・リッツと手がけた、ロンドン、モンテ・カルロをはじめ、ヨーロッパ各地の避暑地に広がる高級ホテルが力を得たのは、交通手段の発達という背景があったからこそでした。

また、同時に彼が行ったのはフランス料理の威信を世界に知らしめ、揺るぎない地位を築いたことでした。例えばロンドンのサヴォワホテルの料理長に就任してから、食材を管理する権限を得た彼は、それをすべてフランスから取り寄せ、フランスに富をもたらした。今知られる、例えばアルザス産のフォアグラなど、フランスの産地の知名度とともに、フランスの農産物をブランド化した。これも蒸気船や鉄道などの物流の発達なしには考えられないことでした。また「ラ・リーグ・デ・グルマン」という食のクラブを立ち上げ、世界各国に拠点を作り、メンバーは、毎月同日同時に、エスコフィエが作成した同じメニューを味わえるという、プレステージ感溢れるディナーイベントも立ち上げています。これは通信機器の発達なしには実現しなかったでしょう。これは現在、アラン・デュカス氏が政府とともに毎年行っている『グ・ド・フランス』のモデルに他なりません。なんという戦略家であったか。しかも一代で築き上げることができたのには、時代に追い風があったことも想像できます。彼が1903年に記した『料理の手引き』の仕事は、事細かに料理法と軽量を記したレシピは5000以上にも登り、まさに料理人たちのバイブルといっていいもので、いまも料理人たちは、エスコフィエを信奉し、そのレシピをおざなりにすることはありません。

今の時代の基盤を築いた産業革命の力というものに、改めて付き合わされた90分のストーリー。途中で、「人々が集い、語らうことがなければ、ガストロノミーの未来はない」というカレームの言葉が軽く引用されていて、収録は2019年だったので、そこを深掘りすることはなかったのですが、今の時代の厳しい状況へのヒントを、先人からの学びを得て、今誰もが同時に模索しているのではないかと思いました。

今週のトピックス【A】テラスの拡張に便利な、イノヴェーションテーブル。【B】ピエール・ガニエール氏、香港店閉店。【C】ショコラティエ、ミッシェル・クリュイゼル氏、87歳で逝去。【D】エガリム法により、食品の透明性、より顕著に。【E】2つ星『SaQuaNa』、スシのテイクアウト開始。

今週のトピックス

【A】テラスの拡張に便利な、イノヴェーションテーブル。

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