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鱒のコロッケCromesqui@パリ16区「Etude」  フランスの週刊フードニュース 2022.04.03

今週のひとこと

パリ16区レストラン「Etude」へ。山岸啓介シェフのお料理を久々に体験しました。オープンしたのは2013年。来年は10年選手。フランス人にも愛される店として成長しています。

東京・白金台にあった名店「OZAWA」にて7年修行されたあとに2008年27歳で渡仏。フランス人とともに働く中で、技術の浅い同僚たちや、レストランで供される軽めの料理に落胆して、日本人ではあるけれど、しっかりと身につけてきた技術による料理を、反対にフランス人に伝えていきたいという思いも持ったと、オープン当時に話していらしたのを覚えています。

確かに、当時は、アラン・パッサールやパスカル・バルボーなどから学んだ若い世代が育っていた時代で、クラシックな技術よりも、素材中心の料理に傾いて、軽めの料理を出すのはいいが、肝心な基礎的な技術をシェフたちが伝授されないというケースが増えてきた時代でもあったのではないかと私自身も覚えています。

フォンの作り方一つ知らない料理人に多く出会って、彼自身がっかりしたといっていました。技術あってこそのクリエイティブな料理なのに、感性の方が重要視されてしまっている。

「Etude」では、オープン時から「OZAWA」の伝説的なシェフ、小沢貴彦さんにオマージュを捧げた料理がありました。小沢シェフは石鍋裕シェフたちと肩を並べる名シェフですが、フランスに一度も渡ったことはなかった。ところが、フランス料理の王道を貫きながら、日本の素材を小気味好く使って、誰よりもフランスらしい料理を皿に載せてきたという逸話も残っています。

それはキャビアのコロッケでした。ジャガイモにカサゴを和えた生地にキャビアをふんだんに加えてコロッケにしたもので、鱈のブランダードを思わせます。

しかし近年、そのキャビアのコロッケをメニューから外していました。自身のクリエーションに対峙するため、あるいは、過去から脱却できた印だと感じていました。

ところが今回お店に足を運んだ時、コロッケがテーブルに現れたのは、サプライズでした。

しかし今回はキャビアのコロッケではなく、鱒の卵を鱒のフィレで包んだコロッケ。ほうれん草の付け合わせとともに、デリケートな柔らかさと優しさが伝わる美味しさでした。キャビアのコロッケという原点に戻り、さらにご自身を進化をさせていきたいという覚悟というか。

隣の席には、ヴォルネーで200年の歴史を持つLe Domaine Marquis d'Angervilleの当主であるGuillaume D'Angerville氏が息子さんと食事にいらしていました。ご自身のワインをあけ、山岸シェフの料理を堪能されていました。パリにいらっしゃるときには、この店での食事を楽しみにされているそうです。

山岸シェフはワインにも造詣が深く、店のオープン前から生産者のもとへ足繁く通い、そんな繋がりが店のワインリストにつながっている。今の料理のにしても、客室責任者のJean Charles Colinさんとともに、パリ近隣の生産者を発掘し、納得のいくまで素材を探し、皿作り、味作りに専心する。

いただいた鱒のコロッケも最高に美味しかったですが、ますます磨きをかけていくに違いない。そんなことを予感させる一皿。

料理を愛する料理人の姿には、いつも心打たれています。

今週のトピックスは今週のひとことの後に掲載しています。食関係のスペシャリストの方々に、有益なヒント、気づきとなりそうな話題を毎週ピックアップしてお伝えしています。【A】「牛の骨髄風味」のアイスクリーム。【B】3つ星レストラン「ラルページュ」のサステナブルなコスチューム。【C】セーヌ河岸、都市改造プロジェクトMorland Mixité Capitale。【D】レストラン経営者のヒーローStéphane Manigold。ミシュランガイドでは3つの星獲得。

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