フランスから、食関連ニュース 2020.12.16
今週のひとこと
今週のフランスでは、立て続けに、食における偉大な哲学者を2人も失ってしまいました。日本でも知られる、ワイン醸造学者で、フランス味覚研究所の創設者、味覚教育の推進者でもあったジャック・ピュイゼ氏(享年93)と、3つ星シェフでもあったブルゴーニュの名士マルク・ムノー氏(享年77)です。
ムノー氏には、彼が長年愛着を持ち、手入れを行き届かせていた館、レストラン「レスペスランス」の客間にて、長時間、インタビューを行う機会をさせていただいたことがありました。ピュイゼ氏には、そうした機会をいただけることは残念ながらありませんでしたが、彼自身の本や言葉から学ぶことは、ワインを造るヴェズレーという土地に、精神的に密接に繋がっていたムノー氏の言葉と変わらないものだと感じています。
ピュイゼ氏は、何がJusteであるかということを常に話題にしていました。「Le goût juste(公正な味)」という著作も残されています。justeというのは、「公正な」の意で、偏りなく、正当な状況を表す言葉として、ピュイゼ氏は使っていると思います。この時代、「偏りなく、正当な」ものを見極めることは難しいと思いますが、「公正なワイン」とは、何であるかについて、ピュイゼ氏が以下のように記されているのが、非常に示唆的と思いました。
「生まれた土地と生まれた年の顔、すなわち、それを作った人間のTripes(はらわた、根性)が現れているワインである」と。「商業主義ではなく、自然と対峙したときの覚悟が全身全霊で現れているワインであるということ。そのワインは、日焼けをして熱を帯びているのか、水の味わいがするのか、など、すべての特徴がそれらを表しているいうこと」
ムノー氏は72年に「レスペランス」を創業され、83年に3つ星を獲得されていましたが、独学者であったムノー氏が築き上げた自身の世界にも、自然との対峙がありました。今でこそ当たり前の組み合わせとなりましたが、「海と山」、さらには「空」との組み合わせによる創作、そのころから有機栽培の自家畑を所有されていました。
その彼が語ったいくつかの言葉を紹介させてください。あまりにも多くの言葉をいただいたので、すべてこちらでお伝えするのは難しい。皆さんに知っていただく方法を探したいと思います。
「ブルゴーニュ地方ヴェズレーは私にとってなくてはならない場所です。それには根拠があるのです。私はもう30年もマドレーヌ寺院の正面に住んでいて、このレストランからもマドレーヌ寺院を眺めることができるのです。カトリック教徒がヴェズレーを聖地の一つとしましたが、それは土地のもつ磁場だからでしょうか。魔法使い、ドルイド僧、北アメリカだったらトーテムポールが置かれたであろうような、そんな場所だと思っています。地電流が生み出す何かがある。「場」は環境よりも強く、料理人はそれに対して敬意を示さなければならないと思います。土壌、海、水、空気をもって料理する。料理にはそれらを祀るのだ。だから私はこのヴェズレーにこだわって、ここにいるのだと思います。それこそが私の力です。ここで生まれ育ち、私という人間が形成されました。ムノー家は、5世紀もこの土地で生きているのです」
「千夜一夜物語り、プルタルコス、ルソー、カミュ…読書は私の思考の大地を耕してくれる。知識という名の大地である」
「味わいは、すべての冒険的な考えを退け、本質的なことを見分ける、たった一つの砦だと思っています。瞬間的な力は、なにも導きはしない」
ムノー氏も全身全霊ですべてに対峙した、公正な人だったのだと、ピュイゼ氏のあり方とともに反芻。人生の指針にしていきたいと、年末に誓いました。
今週のトピックスは今週のひとことのあとに表示されます。【A】フランス中のマルシェを、レストランに解放?【B】ヴァローナ社、初めてのグラン・クリュのビーガンチョコレート発表。【C】サウジアラビア王国による、2024年完成の高級ホテル、ジャン・ヌーヴェル担当。【D】「ル・ブリストル」にポップアップエピスリー登場。【E】ロワール地方の味覚教育。
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