高麗青磁の皿に乗る、ミネラル溢れるフレンチ@パリ5区 フランスの週間フードニュース 2022.01.21
今週のひとこと
1月に入ってから、次々と友人たちがコロナに罹患する、あるいは、濃厚接触者となるという状況で、レストランへのキャンセルが相次ぐという中、今年初のディナーを、友人のエリック・トロションが営むレストラン「Solstice」で過ごすことができました。エリックは東京・新丸ビルにも「eric'S by Eric Trochon」という店を展開しています。Solsticeとは、一年を刻む至点のこと(夏至・冬至)。
1日40万人以上の感染者が出る中、直前のキャンセルが絶えないとは話していましたし、ディナーの日も30席弱の店で、14人ものキャンセルが出たといっていたので、内心心配していましたが、あっという間に満席になって、人気のある店の底力はすごいと感心しました。
日本の食文化にも造詣が深いのですが、2019年夏に、初めて自身で創業した店「Solstice」では、韓国人でソムリエールでもある奥様との店でもあるということで、韓国の家具、アートをさりげなく引き立てた店作りになっています。お皿も韓国から。高麗青磁の流れを組んだ、青緑がかった、深みのある白。陰りのない真っ白い皿が未だ主流のフランス料理の世界に取り入れるのは非常に挑戦的でありながら、繊細なエリックの料理を引き立てるキャンバスになっていました。
写真にある絵のキャンバスの色に呼応する皿の色。
「カリフラワーのデュバリー・クリームにフランス産キャビア」、「帆立貝のラングドック・ワインVinum Praeceptoris風味、バニラ風味のパースニップと朝鮮白参(赤ではなく)」、「コルシカ仔牛「Tigre」、栗のニョッキ、シャントレル茸、ギンバイカの実」と、ニュアンスのある様々な白、自然の苦味から生まれる色合いが映える。
青磁というのは、青緑色の釉薬を掛けた磁器ですが、釉薬が鉄分を含有するために、焼き上げると、独特の灰色がかった青緑色になる。その見事な化学変化が、クリエーション豊かな料理だからこそ生まれる化学変化の色合いと呼応しており、美しい料理でした。
白ワインの味わいを表現するときに、ミネラル分について言及することがよくありますが、自然界に存在する、鉄分やカリウム、カルシウム、亜鉛などの無機質が、微妙な味わいのバランスを決定する一因にも。そうしたことは、硬水が主流のフランスで、さまざまな水を飲み比べてみると、瞬時にわかる。自分の体に合う水というのもありますし、例えば、便通が悪い時にはマグネシウム分がたっぷり含まれた水を飲むことで解消されます。
日本では黒豆を炊く時に鉄を入れて、黒豆に含まれるタンニンと鉄分の結合で、タンニン鉄が生まれて黒く発色するという効果は、よく知られていますが、人が、上手にミネラルと共存してきたことを知ることのできる例だと思います。
弊社DOMAでは、庖丁研ぎをメインとして、庖丁の販売も行なっていますが、かなり頻繁に、お客さまから、庖丁をヴィネガーで洗っていると告白されます。ステンレス鋼ではあっても、キッチンシンクで使われるステンレスと炭素を含有量が高めのステンレス製刃物とは耐食性が違いますし、ましては鋼においては、酢は大敵。
化学変化も敵となったり、味方となったり。上手に日常の生活の味方としていきたいものですが、この化学反応が吉と出なかったときに、実は、大きな発見、気づきが隠されていることもあるかなとも思います。青磁の器も黒豆も、文化はそうやって生まれてきたのだと気付かされる。人間と自然との対峙。エリックの料理は、そんな文化に寄り添い、引き立てる、独創的とさえいえる、ミネラル分溢れた素晴らしい料理でした。
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