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フランスから、食関連ニュース 2020.12.23
今週のひとこと
ブランジェ・パティシエのブノワ・カステルとは、もう15年来の友人です。ボンマルシェ食品館のシェフ・パティシエとして長年務めたあとに独立。もろもろの紆余曲折を経て、今は自身の名を冠したパリの店を3軒運営するに至りました。伝統的で庶民的、かつモダンな内装とレシピ。パリジャンの生活に寄り添う、肩肘張らない、誰もが顔を綻ばせるようなパティスリーやらパンを作っています。パリを下界に眺めることのできるメニルモンタンの丘の上にある20区の店が本拠地で、数百平米もある広大な敷地。工房は地下、地上階は19世紀の煉瓦造りの建物の内装に、道に面した壁の大部分をガラス窓に。そこにはブティックとイートインコーナー、パン窯を包有して、いっぱいに光が差し込む雰囲気がなんとも言えず、ゆっくりとしたひと時を過ごしたくなる場所です。このパン屋のイートインコーナーには、ウィークエンドになると、前菜からチーズ、デザートまでカジュアルで盛りだくさんのセルフサービスタイプのブランチを提供していて大人気でしたが、パリの食業界においては、先駆けの新しい提案だったのではないかと思います。コロナ禍を経て、今後のサービスの仕方は変わっていくと思いますが、これからの消費者がどんなライフスタイルを持って、何を欲していくのか、それに対して何を提案していけるのか、ということをしっかり見据えて、しかも提案する自らが楽しんでいる、そんなブノワのスタイルには、いつも感化されていますし、心から応援しています。
そんなブノワが我らのatelier DOMAに先週土曜日にふらりと立ち寄ってくれました。アーモンドとオレンジ花水風味の大きなタルトを片手に。風味をカスタードクリームタイプの生地に閉じ込め、バニラ風味のジュレで薄く覆った上品で軽やかなタルトは新作でした。このコロナ禍を経て、自転車通勤に切り替え、自身は土曜日は休みにするなど、休みなく働いてきた生活のリズムを見直したということ。ビジネスは変わらないが、リズムを変えたことで、体も心も軽くなったと。そして、試作が済んで店頭に並べたばかりという、こちらも新作のパン「Pain d'hier et de demain」の話になりました。
Pain d'hier et de demainという名前もブノワらしく洒落ているのですが、直訳すれば「昨日と明日のパン」。売れ残ったパンを粉にして30パーセントの割合で生地に混ぜて作ったパンであるということ。普通の粉ではないので、発酵も2倍かかるし、作業も2倍はかかる。しかし、売れ残りのパンのいく末を自分たちで解決したいと考えて、試作を繰り返した末の自信作に。後日、早速店に行き、このパンを手に入れましたが、パン粉で作ったとは思えないほどのしっとり柔らかな口当たり、優しい酸味が香る上品な仕上がりでした。バターをたっぷり塗って、コンフィチュールを添えるだけでも、あるいは薄切りにしてリエットを乗せていただくのでも、甘味、塩味いずれにも万能なパンだと思います。
日本人のパン職人である芳美さんと、旦那さまのパティシエ、ランドゥメンヌさんのカップルがオーナーで、東京にも2軒お店を構えるブランジュリー「メゾン・ランドゥメンヌ」をご存知の方もいらっしゃると思いますが、このお店が今年頭のロックダウン直前に100%ビーガンのブランジュリー「ランド・アンド・モンキーズ」をオープンしたことが話題となりました。何度も「ランド・アンド・モンキーズ」のイートインコーナーで食事をするブノワに鉢合わせとなり、この店のあり方を絶賛していました。オーガニックコットンのエコバックやスタッフ・ウェア、プラスチックを減らすためのウォーターボトルに到るまでデザインし尽くされているがカジュアル。しかも、レシピの充実した美味しいサンドイッチをたくさん提供して、今までのビーガンのイメージを覆す、ヴィジョンのある素晴らしい店だと。ランドゥメンヌ夫婦とも懇意にしながら、ブノワ自身が未来のブランジュリーについて考えて、このコロナ、夏を経て「Pain d'hier et de demain」に結実したのだなと、改めて、おそらく皆と同じように困難に直面しながらも、豊かさを生み出した、ブノワの1年を味わう思いでした。
今週のトピックスは、今週のひとことの後に掲載します。【A】「クスクス」がユネスコの無形文化遺産に。【B】パリ1区、1月にオープンする、安藤忠雄氏手がける現代アート美術館内に「ミッシェル・ブラ」によるレストランが出現。【C】上海の3つ星シェフがホテル「ル・クリヨン」内ブラッスリーの監修シェフに。【D】2020年、最も検索されたトップレシピ10。
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美食大国フランスから。週刊食関連ニュース
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