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フランスから、食関連ニュース 2020.02.11

フランスにおける旬でコアな食関連のニュースを、週刊でお届けします。

1. 今週の一言

第92回米アカデミー賞で、韓国映画の「パラサイト」が、言語が英語以外の映画として初めての作品賞を授賞しましたが、先週観たばかりでした。埋めようもない格差社会をブラックコメディも交えて編み出した脚本、舞台となる豪邸も貧困街もすべてセットから作ったという、ディティールも含めて見事に表現した映画。その中で、半地下で生きる人々が否応なく纏う「臭い」が格差の象徴となり、幾度となく現れている。「臭い」は、それぞれに生きる人々の間にある、目に見えない生理的な境界線であり、或る一線を越えてしまうと、惨事が起きてしまうこともある。映画では実際に惨事が起きるわけですが。現在全世界が抱える富の不均衡の問題とは別に、「臭い」が持つ、闇の中でも危険を察することができる、身を守るがために人間にもたらされた強烈な感覚についても考えさせられ、それを現代社会が抱える問題と並行させて、劇中に込めたポン・ジュノ監督の凄まじさにも驚嘆しています。

私自身が、特に加熱料理をするときに指標としているのが「匂い」です。インゲンや芋の茹で加減、焼き加減、繊維ものは特に火が通ると甘い香りに一気に変わる瞬間があって、それを見逃すことなく調理すると、私にとっては最適な火通し加減になっています。料理人の方から言わせれば当たり前の指標だとは思います。肉を焼くときもそう。繊維がほぐれた時にもたらされる瞬間があるのだと思います。嗅覚はこれほどまで、様々なことを察知してくれるだけに、嫌なものと判断した対象に対する否定的な認識というものは、どのように解消していけるのでしょうか。有害である、という生理的な判断と結びつくだけに。

たまたま魯山人の「料理王国」の中の一節で、狂言として出てくる「食道楽」を再び読む機会がありました。登場人物は、大名、目、鼻、口、耳、胃、手、心で、大名が居眠りをしている間に他登場人物が、大名が長生きをしているのは、誰のお陰かという議論を交わし、面白おかしく争うという内容です。最後に「心」が争いをまとめ、大名が目覚めて一件落着となるわけですが、その心が皆をまとめた言葉が、何かを示唆してくれるようでもあります。

「しずまられよ、しずまられよ、きけば一々もっともしごく。誰が善いとも悪いとも申されぬ。みな、それぞれに大事の役目。さはさりながら、ああうまそうなと食欲をおこさせるのはこの心。ああよい匂いよと、鼻がかいでも、それをうけとるはこの心、口で味わうことはあっても、甘い、酸い、うまいと思うもこの心。手が茶わんをもつ箸をもつ、もとうと思わすはこの心。胃が消化した、腹がへったと催促するさえこの心。心が楽しみ食べぬ限り、どんな美食も身に付かぬ。たとえ、山海の珍味たりとも、この心が失恋の涙にくれてある時は、手も食べものにのび申さぬ。口もひらかぬ、ひらいたとて胸がいっぱいで通さぬたとえ。いやいや、この身ばかりがえらいと申さぬ。みなそれぞれに大事の役目。たとえこの中どれ一つがかけてもならぬ食道楽。みんなで手柄争いは、ふっつりやめて、仲よう一致協力は何より大事のことでござるわ」

この心の言葉のように、複雑な世の中において平和的には参りませんし、食道楽というテーマも今の時代に合う言葉ではありませんが、排他的な感情を制する心を育てることはできそうです。しかしながら、ポン・ジュノ監督が描く闇を、本当に越えることはできるのでしょうか。

2. 今週のトピックス【A】有名パティシエ、アプリケーションのみでの販売展開に投資。【B】デファンス地区に4500㎡のガストロノミービルが登場予定。日本の駅弁屋も出店。【C】ニコチン・パッチならぬ、ミート・パッチ現る。【D】野菜加工業ボンデュエル社、農家を支える試み始動。3.日本@フランス【A】プロスペース・モンタニエ国際コンクール優勝者に、日本人シェフ。

2. 今週のトピックス

【A】有名パティシエ、アプリケーションのみでの販売展開に投資。

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