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ミッシェル・ブラス@パリ・レアール地区  フランスの食関連ニュース 2021.07.07

今週のひとこと

フランスは、新型コロナ感染症拡大防止対策の規制緩和が大幅に進んで、企業は経済活動を一気に進めています。2024年のパリオリンピックに向け、2020年までにオープンを控えていたさまざまなプロジェクトが一気に発表されて、特にパリは華やかな話題で持ちきりです。世界で最も古い百貨店の一つである「サマリテーヌ」の改装オープンもしかりでしたが、実業家フランソワ・ピノーによる「ブルス・ド・コメルス ピノー・コレクション」もその一つ。「ブルス・ド・コメルス」は、パリの中心地レアール界隈にある旧商品取引所(ブルス・ド・コメルス)を、ピノー自身の所蔵アートを展示する現代美術館に生まれ変わらせた、リニューアルは安藤忠雄が担当したというビックプロジェクトでした。

この最上階にミッシェル・ブラスと息子のセバスチャンが店Halle aux Grains(穀物市場)を構えました。ピノーからの懇願もありましたが、それ以上に、もともと「穀物取引所」であったという歴史を携える場所の力に感銘を受けて始まったプロジェクト。日経新聞日曜版THE STYLE(8月8日掲載)のための取材で、ひさびさにミッシェルに会えたのは心からの喜びでした。

ミッシェル・ブラスは、日本でも洞爺湖のウィンザーホテル、そして今は軽井沢に来年オープンするレストランでも話題が持ちきりですから、ガストロノミーに興味のある方であれば、ご存知でしょう。3つ星を取って2年くらい経ってからフランス南部アヴェロン県ライオールの彼の店に訪れたという記憶は鮮明で、印象的でしたが、計算すれば、もう20年もの月日が巡っているのかと思うと、感慨もひとしきりでした。

ミッシェルは独学で料理を学び、ライオールという村、洞爺湖のあたりの風景に似た広大な自然のただなかで、自身の料理を編み出した。その大地で採れた何十種類もの野菜やハーブ、花を乗せた料理ガルグイユがスペシャリテに。彼の思考とクリエーションの源については、THE STYLEにてしっかり執筆させていただくので、そちらで読んでいただきたいのですが、今までの経験で、多くの若手の料理人、特に北欧やフランドル、ベルギーの料理人たちに「最も影響を受けた料理人」を問うと、皆が皆、口を揃えてミッシェルをあげる。そうした影響力は、彼のフィロゾフィを知ると納得ができます。実は私自身もミッシェルの料理をいただいたときには、今までに味わったことのない新しい感覚というか、衝撃が走ったのを覚えています。フランス料理の伝統や手法に縛られない自由さがありながら、レオナルド・ダ・ヴィンチの黄金分割に似た、自然の中に生きる人間の摂理を感じるというか。ミッシェルは、命と自然の摂理への問いかけを常に行なっている料理人を超えた哲学者なのです。今でも思い出しますが、ライオールの店のホールでインタビューをしている最中に、ふと足元の石に刻まれた言葉が気になった。「黄金比がすべての源である」と書いてあって、軽い戦慄が走ったのを覚えています。それを問うと、ミッシェルは、ここにあるすべては黄金比からできているんですよ、とにこやかに呟いた、そんな風に語った彼の顔もよく覚えています。今から考えれば、それは迷信めいた呪文ではなく、自然と対峙する方法だったのだなと改めて感じさせられています。

パリのこの店では、80にものぼる種(穀物も含む)をフランスはもちろん世界から取り寄せ、発芽させたり、グリルしたり、焙煎したり、発酵させたりと、さまざまな形に変化させ、他素材との仔細な組み合わせの試行錯誤を繰り返して料理に統合させていくという試みに挑戦しています。息子のセバスチャンとともに、これから、どのような形で私たちを驚かしてくれるのか、どんな道のりを残してくれるのか、また、未来への提案をしていくのかがとても楽しみです。

https://www.halleauxgrains.bras.fr/



今週のトピックスは今週のひとことのあとに表示されています。ご笑覧ください。【A】「NOMA」がガルムを商品化。【B】ドギーバッグの義務化始まる。【C】「プラザ・アテネ」のメインダイニングに、もとデュカスの精鋭チームが残る。【D】ロシアが自国のスパークリングワインのみに、シャンパーニュという名称表示を許可。

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