閑話 ①
夢の中の常連
胸が苦しくて目が覚めた。夢の中でモーツアルトの協奏曲が奏でられていたのだが、まだ響いている。
大好きなカフェがある。実際行ったお店の記憶なのか、全くの創作なのか、その合成なのかも判別がつかない。
でも、夢の中では、しばしば通っている。都会の商業施設、大きな建物をつなぐ幅の広い連絡橋の途中に、こじんまりと佇んでいる。連絡橋は地上6階くらい、屋根はない。カフェは小屋みたいな後付けの建物。カフェの周りに申し訳程度にテラス席が設けられている。
店員さんはいつも違う。イケメンのお兄さんだったり、愛想の良い元気な女の子だったりする。コーヒーは、どの店員さんが淹れてくれたものも、すこぶる美味しい。音楽はモーツアルト。
楽しかった時間
わたしは、悪夢を見る。大概そうだ。その悪夢の途中で、カフェに遭遇する。意識してそこに到着する時もあるし、突如として現れる事もある。追われているのも忘れて、しばしコーヒーを楽しむ。
木製の椅子に腰かけると、都会の高層階の風が吹き込む。暑い日でも、そこは涼しかった。商業施設とあって、人通りは多い。行きかう人を眺めているのも楽しかった。こんな喧騒の中でコーヒーを楽しむわたしに、通行人は物珍しそうな目線を返した。それもまた楽しかった。
それでもたどり着けなかった
今日はどうしても場所がわからない。建物はわかった。地上からは、例の連絡通路も見える。でも、商業施設ではなく、大層高級そうなホテルになっていた。意を決してドアを開けると、行き方がわからない。うろうろしていると、モーツアルトが微かに聞こえてくる。
高級そうなホテルの重圧に負けて、建物の外に出る。次は反対側から行ってみよう。連絡橋なので、アクセス出来る建物はふたつあるのだ。しかし、反対の建物がなかなか見つからない。
やっと見つけたと思ったら、工場の様なところだった。油臭く、大型トレーラーが何台も並んでいる。これは違う。諦めた。
聞こえるはずのない、フルートとハープの協奏曲が遠くで聞こえて憎らしかった。
ああ、美味しいコーヒーが飲みたい。