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小さな恋

テントウムシ事件

小学校1年生の春の話。
わたしは「テントウムシ」が大好きだったので、教室の片隅で飼い始めた。捕まえては、その入れ物に入れた。アブラムシが付いた草花も一緒に入れた。アブラムシは気持ち悪かったが我慢した。休み時間の度に眺めて過ごし、その可愛さにうっとりしていた。
外の環境と同じにしようと、雨の日はスプレーで入れ物の中にも雨を降らせた。水がなければ、喉が渇いて可哀そうだと思ったのだ。しかし、それがいけなかった。水没して全滅してしまった。 
泣いた。ずっとずっと泣き続けた。死んでしまったのも悲しかったが、水を与え過ぎた自分を責めた。最後には朝食べたものを全部吐いてしまった。が、まだ泣き続けた。教室は騒然とした。

初めて好きになったのは男の子

その吐しゃ物を片付けてくれたのは、河野くんだった。一言も発せず、黙々と片付けてくれた。その様を不思議な気持ちで眺めながら、わたしは自分でも気が付かないうちに泣き止んでいた。
大人になるまで、自分は男子だと思っていた。だから、恋愛をする相手は女の子だと思っていた。
当時は、恋愛感情がどんなものかも、わかっていなかった。
でも、わたしはテントウムシを眺めるかわりに、次は河野くんをずっと目で追っていた。河野くんは野球部だった。男ばかりの3兄弟の一番下で活発な子だった。本来は苦手なタイプで、言葉を交わす事もないし、テントウムシ事件の後仲良くなった訳でもない。それでも、一方的に河野くんを見つめて過ごした。
これが「好き」って感情だとも気付いてもいなかった。それに、いつの間にか、見つめるのも止めてしまっていた。その辺の経緯は、実はよく覚えていない。

たぶん初恋

わたしは、小さな頃から、女の子とばかり仲良くなる。
折り紙、あやとり、お絵かきなど室内で遊ぶのが好きだった。男の子は大人しい子とは遊んだが、 乱暴な子はトコトン苦手だった。相手が女の子でも、気の強い子からは泣かされたりもした。今をして思えば、仲良くしてくれる女の子は「女子同士」として友達になってくれていたし、攻撃してくる子は「おとこおんな」を嫌ってた気がする。
ところが、活発な女の子を好きになった。ゆかりちゃんはクラスで一番背が高く、徒競走も一番早い。ショートカットで気が強い。本来、一番苦手なタイプである。学年で一番の低身長であるわたしは、見上げる様であった。
一番背が高い女の子と、一番小さな男の子。恋は成就しなかった。

それでも、わたしは小学校1年生から6年生までずっとゆかりちゃんが好きだった。その気持ちを、当人にも周りにも、隠したりしなかった。
6年間ずっと、わたしは学年で一番チビだったし、よく泣いた。ゆかりちゃんは、ずっと一番背が高く一番足が速く、美人でハンサムで格好良かった。

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