LGBTQ事情#15 無事結婚をしたけれど。
苦手だった母と仲良くなりたい。孫の顔を見せて喜ばせよう。私は、結婚と出産を目標に掲げた。つまりそれは、LGBTQの特性を持つ自分を殺す事になる。だけどすでに目標に向けて動き出していた私には、そのリスクはもう見えていなかった。
母の紹介してくれた相手とはすぐに別れてしまった。しかし母の機嫌を損ねたタイミングで、私と結婚をしたいという人が現れた。私は彼を好きではない。だけど今はそんな事を言っている場合ではない。試しに彼と居酒屋デートをした。酒が進むにつれ、私は不思議な事に自分の抱えるLGBTQの悩みをペラペラと喋っている。
「私は女じゃない。男でもない。自分の性別が自分でわからないことは、今の社会ではとても生きづらい。」
自分の闇を昨日の思い出話みたいにスラスラと話せてしまった。何て楽なんだろう。レモンサワーをガソリンにして、ヒートアップする私の話を、彼もまたハイボールをあおりながら真剣にうなずく。今にして思えば、「どうでもいい相手だから話せたわけでしょう」と突っ込みたくなる。だけど、その後の彼の言葉で、私はこの人と結婚できると確信した。
「つまり、ボクは、男の中だけじゃなく、女性も含めた全ての人類の中から選ばれたってことなんだね!」
なんてアホ、いや、素晴らしい考え方なんだろう。LGBTQのことをカミングアウトしてきた中で、軽さナンバーワンの返しだった。恋人とは思えないけれど、友達としては仲良くなれそう。友達みたいな夫婦、それもいいじゃないか。
そして2ヶ月後、母に結婚を報告する。しかし、彼の人となりを話すにつれ、母の顔は曇った。確かに母の理想の相手ではない。彼には自慢できる肩書きはないし、しかもバツイチ子持ちで借金まみれのギャンブル好き。だけど、これを逃したらもうないかもしれないと焦った。無理に押し進めた挙句、「一切、親族と関わるな」と絶縁を宣言されてしまった。もっと、時間をかけて説得すればよかったのかもしれない。だけど、子どもを産めばきっと変わる。最後の切り札はまだ残っている。そう思って籍を入れた。
ひとまず一歩。家族と対立する事には慣れている。それに、彼、いや、夫は、とても私を理解してくれた。
「うちでは女らしくしなくていいんだよ。足を広げて座っていいし、家事だってしなくていい。僕が何でもしてあげるから、好きな仕事に没頭して!」
そういって魚を一から捌いて刺し盛りを振る舞ってくれたり、朝からパンケーキを焼いて起こしてくれたりもした。
私はありのままの自分でいられる居場所を見つけた、ような気がしていた。
しかし、その平穏は続かない。私にとって脅威だったのは、同居していたお姑さんだった。
次回へと続く。