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LGBTQ事情#13 情けない恋の話。

 先月、ここで、誓った。生身の自分を晒していくと。無自覚の差別や他者の痛みに敏感になるために。

 バイセクシュアルであるがゆえにしてしまった過去の情けない恋愛を思い出してみる。

 私はバイト先で、年上の女性を好きになった。女性に恋をすると決まって、友達でいることに徹する。思いを告げてギクシャクするより気持ちを秘めたまま仲良くする方がいい。相手が女性の場合、手を繋げたり、ハグしたり。男性の場合よりもハードルが低い。それ以上を求めることは絶対にしないのがマイルール。

 私が特にあの人を好きだったのは意地悪な笑顔。人が困っている様子を見ると、あの人はとびきり悪い笑顔で「ねえ、聞いて!」と飛びついてくる。かわいい。

 ある日、あの人が私の耳元でささやいた。

「あのおじさん口説ける?彩っておじさんウケしそうだからさ。マンションとか買ってもらって。そこで、パーティしようよ。」

 私は、無茶ぶりに一瞬で本気になった。

 さあ、ターゲットは、バイト先の管理職。いかにもモテなそうなバツイチのおじさんだ。

 おじさんとはすぐに毎日5通くらいのメールをする仲になる。たくさんの恋愛指南本を読み、聞き取りをして、好みの服装やメークの研究をした。好きな人(あの人)のためならスカートだって着れちゃう自分の都合の良さには呆れ返る。進展をあの人に報告する度にもらえる意地悪な笑顔は全部、宝物だった。

 「ねえ、おじさんのこと本気で好きになってない?最近オンナ度増してるからさぁ。」

 とあの人。そんなわけない!私が好きなのはあなた。なんて言えるはずもなく。

「マンション見えてきたねぇ!」

 あの人はそう言ってハグをしてくれた。宝箱が溢れそうだった。

 ようやく、おじさんとデートを取り付けた。当日の朝、おじさんから思わぬメールが来た。

「ごめん、やっぱりワシ、こんな若い子とは無理だ。さようなら。」

 何度もメールをしたが、もうおじさんからは返事が来ない。あの人に言ったらどんな顔をされるだろうか。怖くて、そのままバイトをやめてしまった。2度、失恋をしたような、情けない恋だった。

 人としてどうだ。罪悪感から自己否定、負のループにはまる。自分の弱さ丸出しの恋。LGBTQだからうまくいかないんじゃない。バイセクシュアルとかXジェンダーとか、そんな事は私のたった一部分。言い訳にするのは違う。

 この情けないのが丸々、私自身なのだ。そう自分に言い聞かせて、私は、また新しい宝箱を抱えて上の空でいる。

山陰中央新報
2021年6月1日火曜日 掲載分
写真 いしとびさおり

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