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LGBTQ事情#14 結婚を目指す。

 私は去年、結婚をした。

てっきり「おめでとう」と言ってもらえるものだと思っていたので、家族の誰からもその言葉をもらえなくて驚いた。家族の目利きは大正解。おめでたくない結婚は、長続きせず、10ヶ月で離婚となった。結婚から離婚までの1年間を何回かに分けて丸出しにしていこうと思う。

結婚を考えるようになったきっかけは、二番目とわかって付き合っていた恋人と別れ、孤独の真っ只中。別れ際に言われた「家族は大事にした方がいい」という言葉を思い出した事だった。

 私は家族が苦手だ。家族には、一度もLGBTQの話をした事はない。女は女らしく、男は男らしくという昔ながらの考えが飛び交う環境に私の居場所はない。そこにいると無意識のナイフが突き刺さる。そして私も無意識のナイフで傷つけてしまう。だから、家族とは距離を置いていた。

 家族とどうやったら仲良くなれるだろう。ふと、「孫の顔が見たい」という母の言葉が私の中を通り抜けた。それは私の1番嫌いな言葉。Xジェンダーを自認する私としては、結婚、ましてや出産など考えられない。出産は女がするもの。そんな事をしたら心が壊れてしまうに決まってる。だけど、脳内スクリーンに写った母の言葉たちが勝手に動き出し、いつのまにか私は赤ん坊を抱え、母と笑顔で語り合うシーンが見えてしまった。もうこれしかないのかもしれない。何かを犠牲にしないといけない時もある。全ては母と仲良くなるためだ。そうと決まると私は早い。細かいことは考えない。とにかく動く。

 「結婚しようと思う。お母さんが、私と結婚して欲しい人がいたら紹介して。」

 母と仲良くなるための結婚なのだから母が決めればいい。母は大喜びで医者の卵を紹介してくれた。母の嬉しそうな声に感じたことのない喜びに包まれた。しかし、彼とは初めから噛み合わなかった。彼が見ているのは医者としての成功。私が見ているのは、子を産んで母と仲良くなる未来。すれ違っている。でもそれでいいのだ。私は私の目標達成だけを考えよう。彼にどんな扱いをされても耐える。それで母と仲良くなれるのなら。そう意気込んだ。

 妻予備軍として、料理や洗濯、家事がどれだけ早く美しく出来るか、仕事で疲れた彼にどんな言葉をかけられるか、毎日が闘いだった。自分を殺し、理想的な女をやる。これまで女優として女を演じてきたのだからできないはずがない。しかし、やはり私は三流女優。たった3ヶ月で息が切れた。タイミング良く、彼の方から別れを切り出してくれた。

 ホッとしたのも束の間、母の機嫌を損ねてしまった。どうしよう。またあの孤独が背中を追いかけてくる。焦った。そんな時、私の前に、私を好きだという人が現れた。そして、その人と結婚する事になるのだが......それをきっかけに母から完全に見放されてしまう事になる。

 おめでとうをもらうのは、案外難しい。こんなに世の中にはおめでとうが溢れているというのに。

2021年7月6日火曜日
山陰中央新報 掲載分
写真 いしとびさおり

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