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JR根岸駅徒歩5分6畳1R
京浜東北根岸線の根岸駅から徒歩5分、6畳ワンルームが、就職して初めて借りた部屋だ。とは言っても、会社が半分家賃を出してくれてたし、部屋を探したのも会社の事務の人だったから、厳密には初めて借りた…とは言えないのかもしれない。
北海道を離れて本当に初めての一人暮らし。高校生の時からananのインテリアや雑貨特集を切り抜いて、スクラップしていたあたしは、完全に浮かれていた。
無印のスプリングマットレス、床に布を敷いてソニーのミニコンポとテレビデオ。小さな引出と姿見。初めて渋谷の丸井に1人で行って、タイル張りの小さなテーブルを買った。配送に時間がかかると言われて、重いテーブルの脚をばらして混雑する東横線で持ち帰った。
学生時代、同じ寮に住んでいた女の子が世田谷に、1つ上の男の先輩が大船にいたから、週末もそんなに寂しくはなかった。
ご飯を食べに行ったり、飲みに行ってうちに泊まったり。そういえばあの頃、客用の布団なんてなかったから、シングルベッドの横の辺に3人で並んで寝たりした。
近くには公園があって、女の人が一人でやっている小さなおいしいパン屋さんがあって、急な坂を上るとユーミンの歌に出てくるレストランがあって、日石の工場の明かりが見えて。
初めて1人でミスドに行きゆっくり本を読んだのも、スイカを4分の1買って全部ひとりで食べたのも、あの街だった。時々、会社の帰りにガーベラを買って、部屋に飾ったりもしたな。小さな夢を一つ一つ叶えることができた街。
向かいは自動車の修理工場で騒がしいし、バス・トイレはいっしょのユニットバスだったけど、あたしの初めての城だったあの部屋。
若くて、浅はかで、無謀で、世間知らずで、夢見がちな田舎から出てきた女の子には、十分すぎる部屋だった。
いつか、あの部屋の窓を見上げてみたい。
浅はかで、無謀で、世間知らずなのも悪くない。