新しい世界
高校を卒業して入った学校は家から200Km以上離れていたから、寮生活だった。北海道の田舎で学生時代を過ごしたので、一人暮らしが夢だったのに。
工学系の学校だったから男子が多く、男子寮と女子寮はコの字型に繋がっていて、食事が運ばれてくる扉は固く閉ざされていた。
あたしの部屋は2階で窓からは堤防が見えた。備え付けのベッドと机とロッカーが2つ。実家から持ってきたのは、レベッカの曲目がCMで流れていたソニーのミニコンポと衣類、その当時の彼氏にもらったクマの大きなぬいぐるみ。
夏に窓を開けると、男子寮の先輩が大音量で聴いているプレスリーやストレイキャッツが聞こえた。
夕陽の差し込む時間は、窓辺でボーッとするのが気持ち良かった。
友達や先輩の部屋を行き来できて、気配を感じられる寮生活は、一人暮らしの準備としては良かったのかもしれない。
お風呂やご飯の時間が決まっていたり、洗面所に入る時には「失礼します」と言わなければいけないなど、不自由なこともあったけど、いろんな地方から来た人と触れ合って、知らない音楽をたくさん聴いた。
あの部屋で18、19歳のあたしは、新しいものに沢山出会った。
新しい仲間、新しい言葉、新しい音楽。
それらは確実に今のあたしを作っている。