何者でもない者に戻る瞬間
仕事では一応チームリーダーであり、最近課長の役職がついた
人材の入れ替わりが激しく、入社して6年経った頃には気づいたらなかなかの長老社員と化していた
常に意思決定をし、指示を出し、人を動かす立場にいると時折モチベーションが保てなくなって
バランスを崩すときがある
ここ2週間、そのゾーンに入ってしまった
部下のマネジメント、上司からの指令の板挟みになり
ついに何もやる気が起きなくなってしまった
仕事を休み、野暮用で外苑前駅に行く途中、乗り換え駅でトイレに寄った
集合時間の1時間前には現地周辺に着いている予定で出発したので、いつもより少しゆったりとした気分で電車に乗った
目的地の2駅手前で息子がお腹を空かせてぐずり始めたので
駅のホームで持ってきたバナナとドーナツを食べさせることにした
-もう一度集合場所を確認しておこう-
そう思ってポケットに手をやると、スマホがない、、
パニックになった私は頭をフル回転させ記憶をたどる
-あそこだ、乗り換え駅で寄ったトイレでポケットからスマホが落ちるのを懸念し、横の台に置いたのだ-
待ち合わせまでまだ時間はある
しかし今乗ってきた20分を戻るなんてとてつもなくめんどくさい
予定を変更して帰宅しようか
一瞬のうちに悪魔と天使が脳内を駆け巡る
・・時間はあるから戻るか
リュックの中がバナナやらクッキーやらでもはやぐちゃぐちゃではあるがそんなことは気にしていられない
息子をかかえて下り電車に飛び乗った
あの駅にスマホがなかったら今度こそ諦めて帰宅するしかないな
頭の中は帰るモード45%くらいを占めていた
乗り換えた駅に到着し、一目散にトイレへ向かう
個室にスマホはない
駅員室に行くと
-ここには届いてないですね、紛失物でしたらあちらに届いているかもしれないですね
ダメかもしれない!と考えているのも束の間、落とし物センター的なところを案内された
こんな近距離で担当が分かれているのかと不思議に思ったがそんなことはどうでもよい
早速落とし物センターに行き、事情を説明すると奥から
-機種はなんですか?
と質問があった
-iPhoneです
-こちらですかね?
この30分間でおそらく90%くらいの確率で私のiPhoneしか届いていないであろうに、
ありませんねー的な雰囲気を醸し出し、ありましたよ!の報告までの時間が少し芝居ぽく見えてしまったのは黙っておこう
この必死な私と余裕な駅員さんのやりとりをその瞬間に急に俯瞰して見る自分がいた
この駅員さんは私が会社で課長であることを知らない
ただ1人の子供を連れた母親に見えているに過ぎない
-ありがとうございました!
とお礼を言う自分が、本当に心から感謝したことにハッと気づいた
いま何者でもない私がこの人に心からお礼を言っている
こう書くと普段どれだけ取り繕って言葉を発言しているかが心配されそうだが
少なくとも本心を隠し、リーダー的発言をしなければいけない場面は多々ある
そう思うと人にはこの「何者でもない時間」というのがたまには必要なのではないかと
スマホを落としたから気づくことができたことに感謝した
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