ショートショート005『福ロッカー』
今年は福袋ではなく、福ロッカーを買った。
鍵がかかっていて、古めかしい真鍮の鍵で開けるようだ。
物を預けるのではなく、中に入っている「福」を取り出すらしい。
売っていたのは、町外れのリサイクルショップだ。
どうせ大したものなんか、入ってやしないさ。
期待なんか1ミリもせず、鈍色の鍵を挿して、回した。
中に何か入っている。
おそるおそる取り出した。
イヤホン、財布、スマホ……去年俺が失くした物たち。
あぁ返って来たのか。
そう思った。不思議だと思うよりも先に、帰って来たんだ、と思った。
ロッカーに首を突っ込んで奥を覗くと、突如、淡い光が降り注いだ。
天井が画面になっているらしい。
眩しさに目を細めて、流れる映像を見上げた。
元気だった頃の彼女が、3Dで浮かんでいる。
手を伸ばせば、触れられるかもしれない。
ーーあぁ、そうか、”還って”来たのか。
俺は泣いていた。
涙も返って来た。
<了>
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