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スパイク・ジョーンズ監督『her/世界でひとつの彼女』

映画を観ている途中からその感想を考え始めてしまうのはわたしの悪い癖なのですが、この映画は観終わっても感情を上手く言葉にすることが出来なかった。というのも、「OSに恋をする」なんていう非現実的なSFだと思って観たこの作品が映し出すのは、恋愛の普遍的な楽しさだったり悩みだったり辛さだったりして、自分のことを考えずにはいられなかったから。

OS「サマンサ」は確かに普通の人間とは違って、知識の量も相手にしてあげられることも違うけれど、そのことがどうでも良くなるくらいに機械らしさのない人格を持ち、知性もユーモアも話し方の雰囲気も、とても魅力的な女性だった。少し警戒しながらも話しているうちに相手に好感を持ち、多くの時間を一緒に過ごして異性として魅力的に感じ、体験を共有することでお互いの一番になる。とても普通の恋愛だ!むしろ、常に一緒に過ごすことができるという点で右に出るものはいないのだから、恋人に適任とすら思えてくる。特に、胸ポケットからカメラが覗くように携帯を身につけ、街で走り回りふざけ合いはしゃぐシーンは、『(500)日のサマー』のIKEAデートに匹敵するくらい恋の高揚感、幸せのピークを見事に描いていたと思う。こちらは実現することが出来ないにも関わらず。

一方で、身体的なコミュニケーションは持つことができないわけで、そのフラストレーションに苦しむことになる。それでも彼らなりの方法でひとつになる瞬間は、今までに観たどんな映画よりもエロティックで、感動的でした。

それから、サマンサ以外にも出てくる女性がそれぞれ魅力的だったのがとても良かったです。女性が素敵な映画はそれだけで映画館に足を運んだ甲斐がある。それに、解りやすい悪者のいない話は好きだ。柔らかい光の中でルーニー・マーラがキュートに笑う映像は、説明せずとも思い出の美しさに囚われ苦しむさまを伝えるに十分だった。

なんだか中学生の読書感想文みたいになってしまった。未来の描き方が物語の邪魔をしていなくてちょうど良かったとか、音楽が良かったとか、終盤は冗長だったんじゃないかとか、色々言いたいことはあるのですが、中学生らしくまとめると、人を愛するとか相手を思うというのはこういうことなんだなぁと考えさせられた映画でした。自分を省みてその幼稚さにちょっと泣いた。

コメディとしてもほぼ下ネタでしたが楽しかったです。素晴らしい恋愛映画ですが、一緒に観る相手は選ぶかな。

映画『her/世界でひとつの彼女』



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