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コラム『レイヴンの話』

日本でカラスといえば、真黒で大きいうえに残飯をあさったり、時に人間や他の動物を襲ってきたりすることから、とかく嫌われ気味である。
 
ただ、カラスと一言でいっても正確には世界中に何種類ものカラスがいて、日本にも何種類かのカラスが生息し、悪さするカラスばかりではない。
 
一般的に大別すると、カラスは日本ではハシブトガラスやハシホソガラスと呼ばれ英語では「クロウ」と呼ばれる種と、日本ではワタリガラスとされ英語では「レイヴン」と呼ばれる二種に分けられる。
 
いわゆる害鳥とされているのが「クロウ」だ。頭が良いため人の顔も覚え、一度、攻撃対象と決めたら何度も襲ってくる。特に子育て期は気をつけなければならないようで、以前、巣から落ちた雛を救おうと手を差し伸べた人が、次の瞬間、頭を何度も攻撃されているのを目の前で見たことがある。
 
一方、「クロウ」よりはるかに体の大きな「レイヴン」は、害鳥どころか世界各地で神の使い、霊鳥として認識されている。
 
日本では、初代天皇、神武天皇が東征した折、その導き役として熊野で登場するのが「ヤタガラス」である。ヤタとは巨大な大きさを表しているので「レイヴン」と考えて間違いないだろう。ただし「ヤタガラス」は足が三本ある。ゆえに伝説上のカラスでもある。日本サッカーのシンボルマークにも使われていることから、近年、広く知られるようになった。そもそも三本足のカラスは中国の神話に登場する太陽の化身と考えられた鳥で、この三本足というのも、大陸から影響を受けたのではないかと考えられている。
 
真相のほどはわからないが「レイヴン(ワタリガラス)」は世界各地で特別な鳥として扱われている。
 
例えば、南東アラスカのクリンギット族には「ワタリガラスの神話」が残り、ロンドンでは「ワタリガラス」はアーサー王の生まれ変わりと考えられ、今も特別な鳥として扱われている。旧約聖書のノアの箱舟の神話の中では、ノアが水が引いたか確かめるために「ワタリガラス」を放ったと書かれている。
 
そしてブータンでは、「レイヴン」は国を守護する守護神の化身と考えられていることから国鳥に指定され、王様の冠の先端にも「レイヴン」がついている。
 
なぜ、古今東西、そんなにも「レイヴン」が特別な鳥として登場するのかはわからない。しかし、かつて私もアラスカやアリゾナ、そしてオホーツクで何度かワタリガラス(レイヴン)を見たことがあるが、ワシやタカを見た時以上になぜか神聖な気持ちになった。
 
それは、これらの神話などに由来してそう感じているというより、私自身が「レイヴン」にある種のシンパシーを感じているからなのかもしれない。
 
かつてブータンで、お坊さんに占いをしてもらったことがある。
 
ブータンでは、占いは一般人ができるものではなく、お坊さんの聖なる仕事の一つである。この時の占いは、仏舞踊の折に使うという古い面の前に置かれた三個のサイコロを使ったサイコロ占いだった。聞くと150年以上使われ続けてきたものだという。なんとも霊験あらたかなサイコロをドキドキしながら持ち転がしたところ、
 
「あなたの人生は、霊鳥レイヴンに見守られている。これまでも、これからもあなたの案内役となって現れるので、安心して大いに動きなさい」
と言ってもらえたのだ。
 
思えば、二十数年前、私が立ち上げた企画事務所オフィスTENのはじまりから南東アラスカのワタリガラスの神話と関わっていた。その後、熊野のヤタガラスと深く縁が生まれ、そして国の守護神の化身がレイヴンだというブータンとも縁ができた。
 
ホピでは、カラス姿の女性が神事のときに聖なる粉(ホワイトコーンミル)を清めとして使うのだが、クロウマザーとも、レイヴンカチーナとも呼ばれている。
 
神聖なる何かに関わるとき、レイヴンは現れるのだろうか。

とにかく、レイヴンは不思議な鳥である。

aya tenkawa

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