
『純度100%の暗闇の世界』で感じた不安や不快が安心や温もりに変わる時
「ようこそ、純度100%の暗闇の世界へ!」
”純度100%の暗闇" …なんとも聞き馴染みのない新鮮なワードで出迎えられ、暗闇の旅がスタートした。
先日、友人と「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」という体験施設に行ってきた。対話をなりわいとしているため、「ダイアログ」というワードにピンときて、どんなところかわからずも、以前から気になっていた場所である。
そして、どんなところかわからぬまま、(良いところ間違いなしという確信を持って)行ってみた。
結果、新鮮で、不思議で、気づきの多い、良い時間だった。
<施設概要>
営業時間:10時~20時 ※事前予約制(チケット予約はこちら)
体験時間:100分 (予約時間の15分前集合)
体験料金:大人:3,850円
中高生・大学・専門学生・大学院生:2,750円
小学生:1,650円 ※対象は小学生以上
アクセス:浜松町駅 徒歩6分/大門駅 徒歩7分/竹芝駅 徒歩3分
この施設は完全予約制。1週間前くらいに予約しようとしたら、すでにわりと予約が入っていて、満席の時間帯もあったくらいの人気ぶり。
一般参加から、貸切、企業研修などの受入れもやっているみたい。
当日、私は友人と2人で参加。同じ時間帯に他3名の方がいた。(後に、親子3世代、しかも四国から来ていたことを知る。多世代参加、とてもおすすめ!!)
この5人と案内人、合計6名で約90分の暗闇を旅することになった。ちなみに案内人の方は、視覚障害の方。これから私たちが向かうドキドキの純度100%の暗闇の世界が日常である方だ。
事前にスマホや時計、カバンなどは全てロッカーにいれ、手ぶらの状態で集合。入口でこの先の命綱ともいえる白杖(はくじょう)を選ぶ。
なんの気無しに、おすすめされたサイズ感だけ気にしてひょいと取る。
が、これがわりと命取りに繋がると後に気づく…

まずは明るいところで、案内人からの説明を受ける。
「うん、うん」とうなづいている自分に気づく。「あ!これじゃ伝わらないや!」とハッとする。咄嗟に、ぎこちない間の後「はい!」と声を出した。
が、「あ、やべ、ぶっきらぼうだった💦 」とちょっと申し訳なさを感じながら、説明の続きを聞く。
その後は、いつもならうなづくだけのようなところも意識的に声を出して、それも明るい声色で、リアクションをしていた。これだけでもいつも以上に、「ちゃんと聞こう」「反応しよう」「明るくいよう」と神経を使っていた。
さらに私の場合、初対面の方々がいる中で、この行動を取ることにもやや抵抗があるというか、緊張するというか、周囲の様子を伺いつつな自分に気づいた。
そして、ついに…
「それでは、電気を消しますね。(パチッ)
ようこそ!これが純度100%の暗闇です。」
案内人の声と共に、真っ暗になった。
私は離島の電灯がないような場所でも暮らしていた経験があるので、それなりの真っ暗は経験したことがある。けれど、人間の目はすごいもので、どんなにわずかな光でも、それがあるだけでやがてある程度、周囲が見えてくる。
しかし、ここは違った。本当に何も見えない。目が必死に何かを見ようとしているような眼圧を感じた。
そして、入口の部屋から、扉が開かれ施設の中へ歩みを進める。
案内人を先頭に、5人順番に続いていく。動き出した瞬間、一気に不安が襲ってきた。
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ここから先、施設の中の詳細は控え、感じたことのみに止める。
ぜひ、施設の中はご自身で体験してみてほしい。
五感と思考と感情フル回転の時間を過ごせると思う。
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中に入ってからの話に戻る。
私は最後尾にいた。後ろには誰もいないという不安なのか安心なのかよくわからない気持ちになりながら、街で見たことがあるように、白杖を地面につけ左右になぞるように振りながら前に進む。
何かにぶつかる。・・・友人の足だ。また進む。コツン・・壁だ。
そんなことを繰り返しながら、前と少し距離を取る。離れたら途端に不安になる。「どこー?」「ここでーす」返ってくる声の距離感と方向が全ての頼り。声が聞こえた瞬間、とっても安心する。
ちょっと慣れてきたら、目がめっちゃ疲れていることに気づく。
全く見えないのにずっと開いていた。開いていたということは何も見えないのに、何か見ようと目が働いていたのだと思う。
ただ、これまた不思議で、閉じると何か不快である。行動しているのに目を閉じているのがとても気持ち悪い。なんか平衡感覚もなくなる感じがする。全く何も見えていないのに。
この気持ち悪さはわからないまま、結局、私は終始、目を開けたまま、立ち止まった時にだけ目を瞑るということを繰り返していた。
途中、友人の白杖と交換した。友人の杖は先端に大きいゴムのキャップのようなものがついていて、地面との接触が滑らかではなく、なぞるようには動かせない。先ほどの杖では分かったわずかな隙間も感じにくい。さっきまで使っていた杖は、自分の体の一部のようにもなりかけていたが、一気に白杖が頼りないものとなり、再び不安と緊張の中、歩みを進めることになった。

今回参加した日は、「LOVE IN THE DARK」という企画?が開催されていた。スタート時に、厚みのある♡のシールを3つ渡され、「暗闇の中で”LOVE”を感じたところに貼ってください。」というものだった。
道中、いろいろなところに貼ってあった。途中、何度かグループの人たちと手を繋ぐタイミングがあった。
私はその人たちの手に貼りたいくらいに、触れていることで隣にいるというのがわかることにとてつもなく安心と温もりを感じた。
実際は、とあるところに3つの♡をくっつけて、クローバーのように貼り付けた。あの場所は、全ての緊張が解け、とってもやすらいだ時間、感覚、空気感だった。
その場所で、案内にから紙とペンが渡された。
「あなたにとって "LOVE" とはなんですか?」
私にとって全く身近でないこのワード。なんとも難しい問いだなと照れくささと戸惑いを感じつつ…ここまでの道中をゆっくり思い返していたら、直感的にこう書いていた。文字が書けているのかもわからない状態で…

こんなこと考えたことなかったけど、出てきたワードはこうだった。
「安心」 「つながり」 「ぬくもり」 「ふれあい」
逆を言えば、純度100%の暗闇の世界ではとても感じにくいものだと気づいた。
常に緊張状態の中にいて安心できるのは時々。
声が聞こえない、触れていない、そんな状態だと繋がり感じられず一気に孤独に、そして不安になる。見えない世界では、聞こえない、さわれなければ、それはそこには存在しないものになる。例え、1m先に人がいても。
緊張状態の中でふと聞こえる声や、どこー?と手を伸ばした先にいた人に触れた瞬間の温もりは、とてつもない安心である。
そんな気づきを得て、最後の地点へ。
空気とにおいが変わり、出口付近に来たことが分かった。終わる頃には、そのくらいまでに感覚が敏感になっていた。
目を手で覆い、徐々に扉が開かれ、まぶたの外に光を感じる。
覆っている手の指の隙間を徐々にあけ、少しずつ光を取り込む。
とてつもなく明るかった。
最後は6人で、それぞれにとってどんな体験だったのか、何を感じたのか、語り合った。最初のよそよそしさは一歳なくなり、6人の繋がりを感じるあったかい時間だった。
今回のこの体験、自分が日常で知ることのない世界を知る時間だった。
けれどこの世界、案内人の方の日常なんだよな。
そんな風に、自分が知らない世界が、誰かのあたり前の日々だってことたくさんあるんだろうな。
自分の日常にないことを知るのは難しい。でもそういう世界があることを心に持ちながら、もっともっと知らない世界に気づき、意図的に踏み込んでみたいな、とも思った。
