男言葉と女言葉?
ポルトガル語のことを一切知らない日本人の方に
「自分が男性ならobrigado、女性ならobrigada」
という話をしたところ
「日本で言う、音言葉と女言葉みたいなもの?」
と質問され、
返答できずに絶句してしまいました。
そういう考え方もあるのか
子供の頃から何の疑いもなく
「それが当然である」と思って使ってきたので
考えたこともありませんでした。
確かに、何も知らない方というか、
男性形/女性形の概念がない言語を持っている日本人からすると
そういう発想になるのだなぁと
興味深く感じました。
「ネイティブの国語」と「外国人の外国語」の学習方法
「それが当然である」と思っていたのは
私が子供の頃にそう教わったからです。
これは、ネイティブの教え方ですよね。
「これはそういうものだから」と言われれば、
言語を習得途中の子供は納得します。
いつも話す例ですが、私たちも小学校で
「『おとうさん』と書くけれど『おとおさん」と読む」
「『わたしわ』ではなく『わたしは』と書く」
と教わりました。
その理由は「そういうものだから」でした。
小学校1年生くらいに習ったのではないでしょうか。
そしてそれで、何の疑いもなく納得しました。
ネイティブの言語習得は、
文法的な理論ではなく、
「そういうものだ」ということを学ぶのです。
もし今、成人した日本語学習中の外国人に
「どうして『おとおさん』と発音するの?」
「どうして『わ』と書かないの?」
理由を問われたり、使い分けの判断基準を訊かれても
答えられません。
もちろん、実際はきちんとした文法的な理由があります。
しかし私たちは「そういうものだ」ということしか
学校で教わってこなかったので、
専門的に勉強しない限り、理由を答えられない方が多いはずです。
これは私たちが「日本語ネイティブ」だから起こっている現象です。
私が常々申し上げている「ネイティブは意外と自分の母国語を解説できない」というところに繋がりますが、
obrigado/obrigadaに関しては、
言語を習得途中の子供の頃に
「そういうものだから」と教わったため
私は「ポルトガル語ネイティブ」の領域に入っていました。
そのため、日本人の方々に
何の解説もできませんでした。
次に考えたことは「状態の形容詞もある」
男言葉、女言葉と考えていたとき、
確かにそうかも、と腑に落ちた瞬間がありました。
しかし次に「じゃあ形容詞はどうするんだ」と考えました。
Eu estou cansado. 「僕は疲れている」
Você está cansada.「君は疲れている」
この2文を見ると、
euは男性で、vocêは女性であると分かりますね。
「自分は男だけど、相手が女性だからcansadaを使う」
という理論を基準にしたとき、
男言葉や女言葉のくくりで考えると、
その意見は破綻してしないます。
男言葉、女言葉であれば、
相手が女性でも、自分が男性だったらcansadoを使うはずです。
日本語の男言葉、女言葉は
表現の種類のことを指すと思いますが、
言語学の男性形、女性形は、
言語学的な規則のことを指すと思います。
そもそも、根本的な概念が全く違うことに気付きました。
この質問は、
実に日本人(日本語ネイティブ)的な質問であると判断しました。
やはり、母国語を基準に物事を捉えてしまう
誰でも、どんな場面でもそうですが、
世界の基準をはかるときは、自分の価値基準がモノサシになります。
つまり、外国語に対峙するときは、
いつでも自分の母国語を基準にしてしまうのです。
そして外国語を、その延長線上にある言語だと思ってしまうのです。
これは良し悪しではなく、それこそ「そういうもの」です。
ですが、そのことに気付いて、
「自分のモノサシが働きすぎていないか」という注意は
いつも払っておく必要があると考えています。
質問した方々は外国語学習者ではないので問題ありませんが、
ポルトガル語学習者にもこのような考え方をしていらっしゃる方がとても多いです。
いつも申し上げていますが、
日本語ネイティブの方がポルトガル語を学習するときは、
「人間が話す言語であること以外の共通点はない」
くらいの覚悟した気持ちで臨むと
ちょうどいいと思います。
日本語は女性性が強い言語という私の見解
日本語では、例えば女性が男言葉を使っても問題ありませんよね。
しかし、女性がobrigadoと発言したら「間違い」になります。
それでも、男言葉を使う女性は「男まさり」という印象を受けてしまいます。
でも、「間違い」にはなりません。
そう考えた時、日本語は「表現」そして「雰囲気」を纏うでオーラを発する言語に対し
西洋の言葉は厳格な規則に則っているという印象を受けました。
日本語は、表現の豊かさが特徴的で、
日本語学習者を悩ませているとよく聞きます。
なんだか、日本語は女性性で、西洋の言葉は男性性を感じますね。
言語学の性は一言じゃ解説できない
さて、そのお喋りの場で、
男性形、女性形の概念から説明しないといけない
と察した私は、
「まずヨーロッパの言語には男性形と女性形があって、」
から話し始めました。
「男性だから使っていいというものでもなく、かと言って相手が女性だったら女性形を使う」
と、簡潔に解説しようとしたら
余計に訳が分からなくなってしまい、
その場が固まってしまいました。笑
きちんとしたレッスンだったらたっぷり時間をかけることができたのですが、
お相手さん方も外国語に特に興味はなく、
会話のキャッチボールの流れでなんとなく質問しただけだったので笑、
なんだか苦笑いで終わってしまいました。笑
aluno, alunaがなくなってaluneに?
ポルトガル語では
aluno「男子生徒」
aluna「女子生徒」
というように、人間の性別によって名詞の性も変化する単語があります。
ポルトガル語は、単語末に
oが付くと男性名詞、aが付くと女性名詞
という傾向が多いです。
近頃、世界では、
性の区別をなくしていこうとする考え方が広まっていますよね。
先日、ブラジルの従姉妹のお姉ちゃんから聞いたのですが、
その影響から
alune
という、性の区別をしない単語が生まれてきているそうなのです。
これには驚きました。
しかし私は、生物学的な男女を区別する単語があるポルトガル語を扱うとき、
世の中の流れとどう向き合っていけばいいか
考えたことがありました。
従姉妹の話を聞いたおかげで、現在のブラジルの状況を知ることができたので、
今後の動きを知れる糸口を見つけたような気がします。
男性形、女性形を見て「嫌だなぁ」という印象を受けてしまう
私も子供の頃、そうでしたが、
男性名詞と女性名詞というものがよく分かりませんでした。
obrigado/obrigadaの理論でいくと、
「男性名詞は男性だけが、女性名詞は女性だけが使っていい単語。
じゃあ、私が『carro(車/男性名詞)』と言いたい時はどうするの?」
この考え方から抜け出せず、子供の頃の私はずっとパニック状態で、
ポルトガル語に苦手意識を持っていました。
(妹と弟は理解していましたので、単なる私の理解力不足でした。笑)
言語学の「性」は、生物学上の「性」とは異なる概念です。
私は、「単語自体に性がある」と考えることで納得しました。
例えば、
carro「車」は男性名詞なので「車ちゃんは男の子」
mesa「机」は女性名詞なので「机ちゃんは女の子」
このように解釈したのです。
そして形容詞は、名詞の性によって変化します。
それは、対象が人間の性であっても同じです。
なので、女性相手にはcansada「疲れている」という女性形の形容詞を用いるんですね。
名詞にも「ele(彼)」「ela(彼女)」を用いる
ポルトガル語で「剣」はespadaで、女性名詞です。
ある外国の映画で、剣士が剣のことを「彼女」と言いました。
それを見ていた日本人の方が「この剣は女の子なのかなぁ」とコメントしました。
その意図は、例えば愛車に名前をつけている方がいますが、
その要領で、相棒である剣に人格を持たせて愛用している=その人格が女性だった
ということだと思います。
一方私は、違う見解を持っていました。
どこの国の映画か忘れましたが、
もしかしたら「剣」という単語を女性名詞で扱う国の言葉で、
女性名詞(剣)に対して「彼女」と言ったのではないか、と考えました。
いずれにせよ、名詞に対して「彼」「彼女」という表現を使うことがあります。
carro「車」は男性名詞ですが、
例えば「あれは良い車だよ」と言うとき
Ele é bom.
という言い回しができます。
バイクに対してelaと表現した日
私はバイク乗りですが、
moto「バイク」は女性名詞です。
「名詞自体に性がある」という考え方で名詞の性を理解したので
バイクちゃんのことを女の子、
もっと言うと女友達だと思って接しています。笑
そして、日本語で言葉にすることはありませんが、
バイクちゃんを指すときはela(彼女)という言葉が頭をちらつきます。
ポルトガル語で
Vou buscá-la.
意訳:バイクを取りにいく
直訳:彼女を迎えにいく
と発言した時は、どうしてか、
なんとも言えない快感を覚えた記憶があります。
おそらく、
「バイクちゃんをようやく『女友達』として表現できた!」
という気分になれたバイカーとしての感情と、
日本語では絶対にしないであろう
「物に対して『彼女』という言い回しをしたこと」に
感性をくすぐられたのではないかと思います。
ポルトガル語は、割と扱いやすい言語(だと思う)
日本語、そして英語にも「言語学の性」の概念がないので
それに触れるだけで毛嫌いしてしまう方がとても多いです。
だけど、それほど難しいものではありません。
それに、ポルトガル語はまだ優しいです。
他のヨーロッパの言語には存在する
中性という概念が全くないのですから。
限定的ですが、スペイン語ですらあります。
冠詞も8個しかありません。
これはかなり少ないと思いますし、
仕組みもとてもシンプルです。
ドイツ語は、基本冠詞だけでも28個ほどあるそうです。
英語に慣れてしまっている日本人は、
ヨーロッパ系の言語に苦手意識を持ってしまいます。
動詞1つ取っても、
1つの時制で6人称分も活用して、
そして直説法と接続法があって、
法×時制×人称で…55種類くらい?(え?笑)
途方もない数だと思ってしまいます。(私も今、計算して動揺しました)
しかし実は、英語が特殊なだけで、
これがヨーロッパの言語の常識なのです。
紐解いていくと大したことない事象ばかりなので、
少し深めに取り組んでみてほしいなと思います。
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꧁愛マリアンジェラ꧂
著書
『日常ポルトガル語会話ネイティブ表現』(出版: 語研)
※共著
電子書籍 (すべてKindle Unlimited対応)
『ブラジルとブラジル音楽とポルトガル語の話』
『ブラジルとブラジル音楽とポルトガル語の話2』
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