「肯定ファースト、お前が先」状態を深掘ってみた
EMSでは、「肯定ファースト」という姿勢を大切にしている。
ここには、人は本質的に肯定されることを望んでいるのだから、相手のあり方を最初に肯定し合うことを人間関係の中で大切にするという、文化がある。特にEMS受講生のコミュニティでは共通語になっているため、コミュニティの居心地の良さにつながっている。EMS受講生でなくても、この言葉に頷いてくれる人は多いと思う。だから私は、このコミュニティを好んで入り浸っている。
一方で、私もだしコミュニティ内でもよく聞こえてくる話だが、「この場では率直に話しもできるし弱みも見せられるようになってきたけど、他(職場や家庭)では難しい」という事象もよく聞く。
私はこの現象を、「肯定ファースト、お前が先」問題と呼んでいる。
肯定ファーストが浸透している場は居心地が良い。そこでは心を開いて率直な対話ができる。でも違う場に行くとそれができない。それはなぜか。
相手が必ずしも肯定ファーストで居てくれるとは限らないからではないだろうか。相手が肯定ファーストになってくれるか分からない場面で、自分が肯定ファーストの態度であることは、相手の話が長かったりすると自分が話をする機会を失くす恐れがあり、慣れないと結構難しい。お前が肯定ファーストになるなら私もお前を肯定してやっても良いよ、上から目線でそう言いたい場が、私にはある。よく考えると(考えなくても)、ちっとも「ファースト」じゃない。
これを、行動経済学のゲーム理論を使って考えてみる。唐突だけど。
ゲーム理論で、「囚人のジレンマ」というパラドックス状況がある。詳しくはこれの説明がおすすめなんだけど、要は、全体にとって利得が最大になる(=より多くの人がハッピーになる≒パレート最適)状況が存在しているのに、状況によってはそこに辿り着かず、ナッシュ均衡と呼ばれる利得が最大ではない状況に陥ってしまうとというものだ。Aという状況が多くの人がハッピーになる状況なのに、何等かの制約のためにゲームプレイヤーがその選択肢を取れないのだ。
囚人のジレンマで言うと、両方黙秘をした方が最大利得なのに、制約(相手の状況がわからない)のためにとりあえずの自分の利得を獲得しようとし、全体としての利得最大のA状況にならない、ということになる。(これ囚人を例に使ってるから、囚人が自白することの方が社会的にはハッピーじゃん、という誤解を生みやすい理論になっていると個人的には思う。この例の最大利得はあくまで二人の囚人の懲役が短くなるものだ、という条件付けを頭に叩き込まないと、直感的な「最適」状態と反する気がしてしまう・・・)
これが、人間関係コミュニケーションゲームにおける肯定ファースト戦略でも当てはまると思う。
分かりやすくするために、コミュニケーションには肯定ファースト戦略とマウンティング戦略しかないものとする。
いっせーのーせ、で、お互いに肯定ファーストでいられればハッピーである。Aの位置で、ここにはEMSのコミュニティなどが当てはまる。一方で、相手がマウンティング戦略を取ってくる場合、こちらが肯定ファーストの状態でいると、いつまでも相手の言うことを聞き続けないといけなくなったり、自分へのダメ出しを聞くことになったり、仕事においては評価が下がるリスクすらある。だからマウンティング合戦に参戦せざるを得なくなる。そこまでいかないとしても、肯定ファーストがしにくい状況が生まれてしまう。
もちろん、現実のコミュニケーションでは、それぞれのパーソナリティの違いや状況や立場の違いもあるし、作戦もグラデーションではあると思う。だから本当にパレート最適なのかナッシュ均衡状態なのかはわからない。ただゲーム理論で考えてみて、状況を俯瞰し、ゲームを支配しているルールを考え直すヒントになりそうだと思っている。
俯瞰すると、なぜマウンティングしないといけないかというと、自分が上であると見せる手っ取り早い方法であり、自分が上であればお金を稼げたり物が売れたり自分の言うことを聞かせられたりする社会構造があるからである。これが資本主義が生み出している構造だと思う。上に立てばおカネを得られる。そしておカネがあると、更におカネを得られ、もっともっと上を際限なく目指すことができる。下の立場の人の声が届くためには、より特殊な何かが優れていると声を張り上げるマウント合戦に参入せざるを得なくなる。
一方で場づくりにおいては、肯定ファーストの状態であると人は安心できて、本来の力を発揮することができ、自分の好きなことをして自分も周りもハッピーになれると言われ始めている。心理的安全性ってやつである。そういう場で活動できれば、結果社会に貢献もできる、、、かもしれない。
人は社会的な動物であるので、人とのつながりを求める。また人は一人でできることはとても小さいけれど、他者と一緒にいると上手くいくこともある。その中でコミュニケーション戦略をどう取るのかは、いつも同じではないだろうけど。
まずは、Aの状態を目指すと見える化していくことが、「肯定ファーストお前が先」均衡を崩すことなのかな、と今のところ私は思っている。
大体、そもそも私は、色んな人とフラットに率直に、その人の背景や大事にしてることやめっちゃ好きなことの話をして面白がりたい、本当はただそれだけなのである。