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あなたに殺された私は全てとなった【自動記述20241122】

午後10時48分

 昨日のことをまるで今日の出来事のように話す君は遠い眼のまま私の頭の遙か向こう、地平を超えて宇宙の彼方を見透かすよう。
 誰をも見ていないといったその表情を隠そうともせず、右手に構えた拳銃をゆっくりこちらに向ける――その手に力は入っておらず、まるで操り人形のようにぐにゃぐにゃの身体で私を殺す。

 殺された私の身体から血液が流れ出て床を濡らし、床の目地から家へと染み込んでゆく。

 そうして私は家となり、やがて大地となり、地球となった。
 地球となって時を経て星が死に、太陽に飲まれたから太陽となった。
 太陽はやがて消滅し、宇宙となった。
 宇宙となった私はやがて何かになった。

 何になったのか言明できず、それはつまるところ語りえないものなのだろう。

 それから私はふたたび人の身体としての私を見いだしたのだった。

 膨大な時のなかでなぜあの瞬間だけが思い起こされるのか、膨大な時のなかで何度考えてもわからなかった。

 あるいは私はあの時に生まれたのか? 

 何を言っているのかわからなかった。
 そしてあの時私を殺したあの人間のことが、まるでわからなかった。
 いや、わかってはいた。
 それは私にとって親密な人間だった。

 しかしその親密さというのは、私がこれまで経てきた膨大な時に薄められてほんのまたたきほどの位置を占めるのに過ぎなかったのだから、いくら重大ぶってみたところでさっぱりその意味などわからなかった。

 あの人間は、あの女は、操り人形のようにぐにゃぐにゃの身体で私にとどめを刺したあの存在は、果たして何なのか。

 そればかり考えた一千年を、一万年を、一億年を過ごした。

 果たしてまた私はその人間と、その女と知り合った。
 そしてその女と仲を深めた。
 そしてその女と一緒に暮らした。
 子どもはできなかった。
 子どもが出来うる行為をしても子どもはできなかった。
 それでも別によかった。
 そうして生活していった。

 そうして生活していくうちに、やがてあの場面が現れた。
 そうして私の身体はその者に穴を穿たれ、やがて家としての生が始まり、土としての生が始まり、空としての、海としての、地球としての生が始まり、太陽としての生が始まり、宇宙としての生が始まり、そして輪廻した。

 すべてを端折ることによってそこへ集中しようとした三周目、四周目、五周目。あるいは目の付け所が違うのではないかと、あれこれ見物した六周目、七周目。

 いやどう考えてもあの一件だけが道理に合わないと思い直してふたたび彼女の研究にいそしむ八周目、九周目。

 それから私は何もかも諦めかけた。
 そして諦めた。
 そしてまた立ちなおった。
 それからまた諦めかけ、そして諦めた。

 時の巡りそのものに慣れ、時が巡ることそのものに親しみ、やがて時の巡りをものともしないくらい精神が透徹された一五三周目。

 すべてを眠りのうちにやりすごすすべを身に付けた二五八周目。

 生とは何なのかを忘却した三一八周目。

 周回だけを数えるカウンターと化した五一九周目。

 それから私は恐らく全てとなった。
 全てと呼ばれうるだけのすべてとなってから、改めて思い返したとき、唯一ひっかかるのがあの家での、あの女との、あの出来事だった。

 それは宇宙のなかのどのような謎よりも謎めいていたが。
 もはや今となってはそれを解き明かそうとは思わない。

 それにそれは、解き明かすべき問題ではないのかもしれない。

午後11時0分

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