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静止、あるいはわれわれの世界。【自動記述20241129】

午後9時34分

 すべての火が消え、すべての花が枯れた。
 すべての波が止み、すべての風が止んだ。
 すべての雲が動きを止め、その場に釘付けられた。
 書き割りのような世界のなかですべての人間は動きを止めた。

 動きを止めた人間たちはその内側で、しかし考えることだけは止めることができず無限に考え続けた。
 己の考えで世界に色を塗り、世界を動かそうとするかのように人々は考えた。

 考える人々の静止した身体は風に吹かれず、雨に降られず、ただその場に立ち尽くした。

 死ぬことも風化することもないまま、ただその内側で思考を内燃させたまま。

 生きたまま死にながら。
 死にながら生きたまま。

 どれだけの時が経ったのかはだからわからなかった、時の巡りを示すなにものもこの世にはなく、ただ己の思考の経緯のみが己の時を形作った。

 形作られた己の思考の時のなかに安らうことで人々は生を紡いだ。

 紡がれた生は縒り合されることも、ましてや織り込まれることもないまま、ただただ平行線をたどっていった。

 何もかもが交わることのない平行な世界のなかで、人々は各々の内側で他者の観念をもてあそぶことで無聊を託った。

 それも飽くと人々は各々の内側で世界の精巧な似姿をうみだすことで無聊を託った。

 それも飽くと人々はその内側で考えることをやめることを考え始め、そして考えることをやめた人々はその釘付けられた身体を透かしていった。

 輪郭が曖昧になる。

 肌の色が、服の色が、どことなく溶け合う。

 地に足が滲み始める。向こう側が透け始める。

 目鼻立ちが崩れ始める。

 そうしてぼんやりした輪郭だけを残してこの世から消えた人間は、どこへ行ったのかわからない。

 あるいはそれが解脱と言うべきものなのかもしれなかった。

 そうすると人間とは、解脱を目指しているのか? 

 あるいはこうも言える。
 人間とは、その長い生の果てに必ず解脱する存在なのだ、と。

 数限りなく生み出された人間がそれぞれ交わらず、各々だけの信仰を抱き、各々だけの方法論で、各々だけの世界を見、各々だけの修練を経て、各々の消滅を目指すというこれは試みなのかもしれない? 
 あるいは。

 風はいつまで待っても吹かず、水面は鏡のように凪いで動く気配がなく、雲は模様のように空に釘付けられて雨を降らせることもない。

 時の停止と思考の加速が世界と摩擦を起こし、見えない火が世界を焼き尽くそうとしていた。

午後9時48分

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