コロナ禍でアジア女性社会起業家たちが創りだす未来 〜私たちが、社会課題解決に取り組んでいる理由〜(後篇)
3人のプレゼンテーションを受けて、後半はAWSEN代表の渡邉がモデレーションを務め、パネルディスカッションが行われた。
起業のモチベーションはどのようなものでしたか?
Chit)私の家族は、起業することが普通でした。大学の友人も起業家が多いです。常に「どんなビジネスをしたいのか、参入していけるか」ということを家族や友人と話していたり、放課後にはビジネスについてあれこれ考えていることが多く、それは楽しい時間でした。
コーヒーが好きで、創業しました。それが、ECHOcafeとなっていますし、ECHOstoreでの販売につながっています。もっと好きで自分が楽しいのは、実は音楽です。だから、ミュージッククラブを創業したこともありますし、コンビニエンスストアもつくったし、ランドリーも開業しました。
何かを始めるときには、パッションをもっていないといけない。失敗するかも…と怖がらずに、私は次々に事業を立ち上げます。だから、私はシリアル・アントレプレナーと言われています。
渡邉)Chitに更に聞きたいんですが、次々とビジネスを立ち上げていますが、そうしたビジネス・アイディアはどこからわいてくるの?
Chit)マーケットのニーズや、現状でできていないギャップなどを見つけること。例えば、コーヒー事業を始めたのは「美味しいコーヒーがなかった」から。自分で、美味しいコーヒーを販売しようと思ったの。
渡邉)Nawが起業したきっかけは?
Naw)
ビジネスを始めた頃は、起業家精神というものがどういうものなのか知らなかった。ただ、自分が趣味としてジュエリーを作りが好きで、それで女性や障がい者を雇用したいというところから始まっているの。人の役に立ちたいと思っていました。
なにがモチベーションだったかと考えると、私の母のことを思い出します。私の母は、看護師としてハンセン病の病院で働いていました。だから、私もハンセン病患者のコミュニティの中で育ちました。多くの人はハンセン病の事を怖がるので、患者は隔離され、病院で孤独な日々を過ごしています。そういう患者さんたちと、職員が一緒に暮らすのです。小さい頃は患者さんが私のお世話をしてくれました。そうした環境の中で過ごす中で、働くことも家族と一緒に過ごすこともできないハンセン病の患者さんたちを助けたいと自然に思うようになっていました。
大学を卒業した後の2018年、ハンセン病関係の仕事につきました。姉も兄も同じだったので、私には当たり前の流れだった。ハンセン病の患者は減ってきていて、それよりも障がい者の患者をお世話することの方が増えてきていました。
ライフコーディネーターをしていた頃は、障がい者をトレーニング学校に送迎していました。でも、女性障がい者の中には子どもがいることで、トレーニング学校に通うことができない女性も多かった。ある村に行ったとき、障がいがあるために、働くことが出来ない女性が沢山いました。彼女たちと共に、自分ができることは何かと考えた結果、趣味のジュエリー作りが頭に浮かびました。ジュエリー作りを彼女たちに教えたら、彼女たちは働けるのではないかと思ったのです。
これが、今のビジネスをはじめたきっかけです。コロナ以前は30人以上のスタッフがいたけど、村へ帰ったりしなくてはならなくなったり、今は6人のスタッフと一緒に続けています。
渡邉)Annはどうかしら?
Ann)
自然を愛するという気持ちから、この事業を始めました。決め手となったのは、Tik Tokで見た歌手の映像だった。彼女は、マイボトルを持ち歩いていることを話していたり、自分の「一年のゴミの量はこれくらい!」という内容を発信していました。その量がほんとに少なかったのです。視聴者は「彼女の行動はすごい!素晴らしい!」と言ってましたが、私は「これって事実なの?」「可能なの?」という疑問をもちました。タイでは、日常的に多くのゴミがでるのに、彼女の住んでいる環境はそうでないことに、ギャップを感じたのです。これが理由で、友人と共に起業しました。
渡邉)
そもそもAnnは研究者で、ビジネスをしたいとは考えてなかったのですよね。それでも、Tik Tokをきっかけにビジネスを始めたのはどうしてだったのかしら?タイには存在しなかったビジネスモデルに、ニーズがあると感じたからだったのかしら?
Ann)
私たちは、マーケットでの実験から始めました。そうしたら、思いがけず、いい反応があって、ニーズを感じた。だからビジネスになったのかな。
ビジネスをするにあたって、これまでに直面した大きな挑戦や壁は何でしたか?
Chit)
大きな困難は、「こんな事業では稼げない」「すぐに店を閉めることになる」「誰も買わない」と、マイナスのことを言われる時。だからこそ、「あなたの店の商品はいいわね!」などと言われると非常に嬉しい。
“All challenges are that nobody will believe you when you first do it, until you do it. ”(何かビジネスを始めるとき、それを成し遂げるまでは誰もその挑戦を信じてくれない)
でもビジネスに確実なものはない。特に、社会起業は軌道に乗ったり利益が安定してくるのに、何年もかかる。稼ぐことが難しくて、事業を止める人もいる。そんな中で、もう私の会社は12年経っているから、ラッキーな事だわって言えるわね。
渡邉)
Chitさんの新ビジネスを信じてくれなかったときの例を教えてもらえますか?
Chit)
新しい店を開いたとき、周りの人は「この店の商品を誰が買うんだ」と言っていたけど、私はそれに対して「まあ、とにかく新しい事に挑戦したいの」と応えていたわ。当時は、誰も環境保護や持続可能な社会、例えばストローを使わないようにするなんてことについて、話をしていなかった。
でも、今の状況を見てください。
気候変動により、私たちのビジネスは必要不可欠なビジネス、商品になっているでしょ?誰も信じなくても、自分自身や自分が感じた社会のニーズを信じて続けることは、とても重要よ。
Naw)
直面した大きな困難は...新型コロナウィルスによる影響ですね。
誰もジュエリーは買わないし、市場も閉鎖されて、仕入れ先も注文をストップして、外国人旅行者もミャンマーに来れなくなって。収入が大きく減ったわ。この状況になる前に、こんな状況になることを想像したことが無かったの。土曜市場で販売したり、ネックレスマーケットで販売したりしていたけど、ロックダウンで全て閉まってしまい商売ができなくなってしまった。Amazing Graceは、食品のビジネスではなく人々にとって必須なものではないこともあり、この状況はとても厳しいです。
渡邉)
そういう状況で、何か対策をとったり、新たに始めことってある?
Naw)
んー...(と回答に困って黙ってしまう)
Chit)
私の知り合いの女性起業家でも、洋服を販売しているお店を経営している人がいるの。コロナ禍では、みんなドレスアップしないわよね。だから当然売れないのよ。私はすぐに彼女に、代わりにマスク製造をはじめるべきってアドバイスしました。ジャケットを製造する代わりに、医療従事者やその他の人のためにマスク製造に切り替えたの。それに加え、枕などステイ・ホームで利用が伸びるであろう、ベッドリネンやソファカバーなどを製造・販売する事業も始めたのよ。
Nawさんがしてるロンジー(ミャンマーの伝統的な衣装)を利用したビジネスでも、同様の事業ができると思う 。最近はみんな一日家にいて、家の模様替えをしたり、装飾したりする気分になるのよ。服を作っている他の女性の友人にも、「服を作るのやめて、家の中で必要となってくるリネンやインタリア関係の商品の販売を始めたら?」と教えたわ。キャンドルとかも良いと思う。
だから、Nawさんもインテリア系の事業に移行したらいいかもよ!
Naw)
実はAmazing Graceも、マスク事業を始めました。ヘアバンドとマスクを同じ素材やデザインにして、セットでオンラインで販売しています。ヘアバンドを買ったら、マスクをプレゼントということにして。
あとは、新型コロナウィルスが拡大する前に娘を授かったこともあって、実はずっと母親と赤ちゃんのためのブランドを始めたいと思ってます。もしコロナの感染拡大がなかったら、こんなに娘と一緒に過ごせる時間はなかったということもある。だから娘にとっては良い時間を過ごせているかなと思っています。
それから、Amazing Graceの主なお客さんは、外国人旅行者だったけど、今は地元のお客さんに目を向けています。ミャンマーには多種多様な民族がいるから、その分ロンジ-も沢山の種類がある。この沢山の種類のロンジ―で、イヤリングやネックレスを作っています。
それで、クリスマスの時期にプレゼントとして地元の人からのオーダーがありました!
渡邊)
こういう、女性起業家同志がアドバイスをし合ったり、それによって更に新たなアイディアを得たり、自信を持てたりする瞬間はいいですね。
実は、AWSENとして新型コロナウィルス禍の中で何ができるか考え、2020年4月にアンケートをとりました。その時に、お金の支援もそうですが、他国の女性社会企業家たちが、どのように新型コロナウィルス拡大の中で過ごしているのか知りたいという声が多かったのです。AWSENがネットワークとして強みを活かせるのは、こういう時だなと思いましたし、オンラインでもこうした繋がりが生み出せるのだなと、今嬉しくなってしまいました。
同じ質問で、Annはどうかしら?これまでに直面した課題や困難はどんなことですか?
Ann)
私のビジネスにおける困難だったことは、コミュニケーションです。
そもそもタイにおいて、私たちがやろうとするビジネスモデルは存在していなかったので、どのように理解してもらうのかということが最初の障壁でした。「どうして自前のボトルを持ってこなきゃいけないのか」「どうしてランチボックスを再利用しないといけないのか」などの声が多くて、やりたいことを理解してもらえなかった。
だから、まずは顧客となる人々に行動変容のの重要性を知ってもらい、理解してもらう必要がありました。これまで当たり前になっていた便利な生活から、マイボトルを持ち歩いたりするという、ある意味では便利ではない生活に考え方を変えていかなくてはならなかったの。
そもそも環境や持続可能な社会に関心があって行動を始めている人は、私たちのやりたいビジネスに興味をもってくれたけど、多くは「環境問題に関心はあるけど、特に何もしない」という人々。この人たちに、どうしたら行動変容を促せるのか、私たちのビジネスの顧客になってもらえるかというコミュニケーションについて考えることが大変でした。
他にも、どうしてこんな小さなことをしているのか?環境に関することなどは、大企業や政府に任せればいいなどの言葉をもらったときも辛かったわ。
周囲が起業に協力的じゃなかったことはありますか?
渡邉)
Annは、最初家族が起業に協力的じゃなかったと聞いたけど。それについて、教えてもらっても良い?
Ann)
両親は、最初私が創業することに反対しました。それに対して私は「まあ大丈夫、自分の道は自分で進むわ~。自分で食べていくだけのお金はあるし心配しないで~」とだけ答えました。ビジネスを通じて、自分としての人生の楽しみは得ることができると思っていたの。
それでも、先程話した人の行動変容や意識変革をしようとしたときに、友人や家族ですら変えることができなかったということが、最初は辛かった。
起業以外にも、出来ることが沢山あると言われたり、博士号をとったのにどうして起業するのかとか...そう言われると、くじけそうになったりした。
コロナ禍で立ち上げたプロジェクトについて教えてもらえますか?
渡邉)
Chitは、コロナ禍で沢山のプロジェクトを立ち上げたりしていたのをFacebookなどで見ていました。それについて教えてもらえますか?
Chit)
最初の1カ月は、寄付を集めて、医療従事者に一日に数百個の食事を提供しました。私がプロジェクトを始めたら、友人たちがどんどん寄付を送ってくれたので、食事の提供はやめられなかったの。結果として、約2カ月毎日続けたわ。作った食事を病院に運び、寄付者の名前を持って写真をとって、SNSにアップすると、更に寄付金や物資が集った。
自分のビジネスの面では、すぐに従業員を在宅勤務に変えました。その結果として、店舗の在庫を全て自分で数えなくてはならなかった。在庫を数えて、残っている在庫をどうしようか考えていた時、友人が値引きした値段で買い取ってくれたりしました。
どうしても店舗にスタッフを呼ばなくてはならないときは、会社として車を手配したりして、スタッフの安全確保もしっかりしました。
今は、自分自身でオンラインストアの状況を常にチェックしています。
Withコロナの将来についてどう捉えていますか?視聴者へのメッセージとともに教えてください。
Naw)
ビジネスは続いているから、頑張り続ける。そんな風に、マインドセットを変えたの。
Do not be overcome by evil, but overcome evil with good(悪に負けずに、善で悪に打ち勝つ!)
マインドセットを変えて、善いことに目を向けること。
今生きてるし、健康。家族とも一緒に過ごす事ができて、自分の好きなことが出来ている。それは幸せであるし、自分にとっての善いこと。
どんなことも諦めないで!
Ann)
コロナ禍において、みんな自分のビジネスの弱い部分に意識がいったり、それを知って打ちひしがれてしまったりしている。でも、今のこの期間は視野を広げたり、新たな視点を取り入れたりするのに良い期間だと思っているの。
来年のビジネスは売上を最大化するのではなくて、サービスを続けていくこと、今後の社会に必要となってくるこを見ながら、多様化させていこうと考えているわ。
Chit)
お二方に同感です。
Withコロナでの生活の仕方を学ばないといけない。だからマインドセットを変えなくてはならい。ワクチン接種!とばかり言ってられない。3つ大事なことがあると思っています。
1. 今市場が何を欲しているのかを考えてビジネスをすべき
2. 諦めないこと
3. デジタルに移行すべき
これからの時代において、デジタルな人間になれるかどうかが、ビジネスで生き残る唯一の方法だと思う。
あとは、今後は気候変動に関係するビジネスに足を踏み入れるべきと思う。
例えば、農業はビジネスになるから、野菜を作ったりと農業でビジネスするのはいいと思うわ。
編集後記
私にとっては、女性社会起業家たちと話をする時間は、いつも学びが多くてエネルギーがチャージできる時間だ。今回3カ国から3人の女性社会起業家に登壇してもらい、パネルディスカッションを通じて彼女たちの強さも迷いもお聞きできたのは、とても有り難い時間だった。最後の3人からの未来に向けてのメッセージは、とても力強く、一方で肩に力が入っている感じではなく自然体であることも印象的だった。
まだまだCOVID-19の影響を受ける日々は続きそうだが、ぜひそんな時に国境を越えて繋がれる仲間がいること、彼女たちが考えていることなどについて、この記事を通じて触れてもらえたらと思っている。
記事化:黒崎寛子、曽根原千夏
編集:渡邉さやか