#2 オリジナル小説
それに触れてはならない。
真実は禁忌、知らないほうがよかったと何度も嘆くことだろう。
それに触れてはならない。記憶を明け渡すことは破滅を意味する。
それでも触れますか?
Yes No
*
「つまり……」
自分はゴクリと喉を鳴らす。
「君は死者で、輪廻転成するために森を守っていて、死者が人間に見えるはずないから僕を仲間だと思った……」
「そういうこと。話が早くて助かる。勘違いして悪かったわね」
目の前の少女は悪びれた様子もなく、淡々としている。名はヨルガ、見た目から察するに自分より幼くしかし言動はそれらしくない。
「いや、別に。こんな所うろついてる方がおかしいし」
「そうよ、おかしい。おかしいわ。どうみても子供だし、じゃーじとか言う聞いたこともない変な服を着てるし、おまけに私たちのことが見える。まぁ色々突っ込みたいところではあるけど、一体何しに此処へ?」
ヨルガはずいと近づいてじろじろ自分を見回す。何なんだ、自分も子供の姿のクセに。死者だけど。
「……忘れ物を探しに」
目をそらす。
「ふーん。まぁ細かいことは詮索しない主義だから。
そうだ、なら手伝ってくれない?目がどこも行くアテないって言ってるし」
そんなことは言ってない。
「何を手伝うって?」
「もうすぐ転生準備に入る樹守者の、家の片付けを命じられてて。家具とか重いから助かったわ」
「転生準備?準備期間なんてあるの」
輪廻転生にかかる期間は人それぞれで、早いものは3ヶ月ほど、遅くて5年はかかる。その期間は樹守者として祈りを捧げたり森の清掃をし、森に生活する。そうして時がたつと自然と身体が若返る。そして赤子になると転生するという仕組みで、赤子になる前の数日間は見た目も幼く自立が不可能なため”準備期間” として長老の元に集められ世話をされるのだ。
「……ということ。今の説明で分かった?」
「だいたい」
ヨルガはふうと小さく息をつく。ため息をつかれたのだろうか、今この面識もない状態で。何なんだ一体。
そして肩をそらし森の茂みに向かって歩き出した。
「着いた、ここよ。」
思ったより立派な、しかも一軒家だった。数ヶ月数年過ごすだけの仮家とは思えない。しかも数人で住んでいたわけでもなく、部屋は殺風景で家具も最低限しかない。寝具一式に椅子、小さめの文机。運び出したものはその3つで、ヨルガ一人でも十分運び出せそうな荷物だ。
「異常に物がないけど、本当にこんな所で生活してたの?」
「異常に……そうね、生者はもっと色々必要だよね。でも私たちには必要ない。栄養はいらないから食ベ物は嗜好品としての価値しかない、寝心地も健康に影響しないから寝具もこれだけ」
「でもこんなに広い家なのに?」
「本当は実体なんかないんだよ。広く見えるだけ。生者に私たちが見えないのと同じでこの家も幻みたいなもの。何でこんなだだっ広いイメージにしたのかは分からないけど」
ヨルガによると、長老という人がイメージを操って衣食住に必要なものを全て作り出しているらしい。じゃあ長老がこの家も片付ければいいじゃないかと言ったが、一度作り出したものはまっさらな状態に戻せないそうだ。変なところでややこしい。
「ちょくちょく出てくる長老ってそんなすごい人なの?」
「まぁね、長老は私たちの取りまとめ役だから。森の神様から生前者の魂を受け取って、樹守者として育てるの。森の神様と直接会えるのは長老だけだし、そういうことも聞けばある程度は色々教えてくれる」
「ふぅん」
気のなさそうな返事をするが、未体験のことばかりでぶっちゃけ興味はあった。それを悟られたのかヨルガは言う。
「今から清掃終了の報告に行くから会えるよ、長老」
え、そうなのか。というかそんなことしていいのか?何だか色々足を突っ込みすぎてやしないかと心配になる。
でも、ここまで来れば気になってしまうのが人間の性。
小さく頷くと、二人は矢継ぎ早に仮家を後にした。
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