【SCRAMBLE 1 】ワンゲル部 先輩・後輩
プロローグ
その日はバイトが終わり、コンビニに寄ってアパートへ戻った。スマホのタイムラインで、誰かが今日はモルの日だとつぶやいていた。モルってなんだったっけ。全然、思い出せない。ん?
エピソード
エピローグ
数時間後、朝方になって先輩から連絡があった。手近なネットカフェからだった。
「こんな時間まで待たせて悪かったな。今回は本当に助かった。お前のおかげで命拾いしたよ。持つべきものはいい後輩。信頼できる仲間だ。」
いつもマイペースな先輩が、いつになく真剣に感謝を伝えてくれた。なんだか照れくさいけど、素直にうれしい。「先輩、無事で良かったです。ほっとしましたよ。」
「心配かけてすまない。一応、会社にもメールで一報を入れた。やっぱりスマホがないと不便だな。夜が明けたら忙しくなりそうなんで、とりあえず仮眠したい。あらためて礼はするから楽しみにしててくれ。」
そうかそう言えば、「会社から電話があったんでしたね。きっと大騒ぎになってますよ。お礼の件は確かに聞きました。ひとまず休んでください。お疲れ様でした。」
数日後。先輩から連絡があり行きつけのバーに誘われた。高級なお酒をたくさん飲ませてもらっていい気分だったが、先輩はいろいろ大変だったらしい。
スマホの通話が中断され、すぐに電波が途切れたせいで、野生動物に襲われたとかテロリストに連れ去られた、あるいは神隠しにあったと噂が飛び交った。大規模な警備隊が組織され、近隣の山岳地帯の徹底捜索がなされた。運の悪いことにテロ疑惑から捜査が極秘になされ、会社の人々が保護対象となり社内から連れ出され外部との連絡が遮断されていた。先輩は浦島太郎状態で途方に暮れていたそうだ。
変な話だが、先輩の方から捜索願いを出しに行ったら真相発覚となった。
「不思議なのはあれから地下壕に行っても何も見つからない。中はすぐに行き止まりで、長いこと土砂崩れで塞がれたままだっていうんだ。」
「どういうことですか? 警察が調べれば、基地局の電波を辿って位置情報はわかるはずですよね。」
「わからん。スマホのデータはアドレス帳くらいしか復元できなくて、お前とのメッセージも残ってない。」
「あれ? 待ってください。こっちのメッセージも残ってませんよ。いつの間に?」
「そうか。だがもっとおかしいのは時間経過なんだ。俺が地下壕に潜ってお前に助けてもらったのは、あの晩だけだったろ。なのに俺は二ヶ月近く行方不明だったらしい。」
「そんな。一体、どうなってるんですか?」
「俺達は何か触れてはいけないものに触れてしまったのかもしれない。」