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マケインについて思うこと。第1回 第1巻前半を中心に

1 はじめに

「負けヒロインが多すぎる!(略称「マケイン」)」というライトノベル小説について、感想は読書メーターにすでにあげたが、どうも書き足りない。
というか、人の感想読んでも、なんかもやもやしたものがずっとたまってきているので、せっかくの機会なのでだらだら書き連ねる。
ようするにマケイン中毒者の妄想なので、わかる人だけわかればいいです。

書いているうちに長くなりすぎたので、今回は第1巻を中心に。

鍵になるワードは「そういうところやぞ」。

2 紹介と前提

マケインはガガガ文庫から出ているラノベで2巻が2021年11月に出たばかり。

著者雨森たきび先生(デビュー作)。

イラストいみぎむる先生(「この美術部には問題がある!」など。控えめにいって神)。 
あらすじとキャラ紹介はこちら。

https://twitter.com/i/events/1405053156694708224


詳しくは上をみてもらえばいいとして、この文章を読むにあたり、以下の本(アはあたりまえ)を読んでいるとより楽しめます。イは1巻にはあまり関係しませんが2巻の考察するときはがっつりからませて書こうと思います。

ア 負けヒロインが多すぎる!1・2巻

イ 氷室冴子「なぎさボーイ」「多恵子ガール」(コバルト文庫)

ウ 平坂読「僕は友達が少ない」全巻

エ 渡航「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。」全巻

というわけでねたばれありの妄想考察開始まで空白行10行ほどあけますね。










3 マケインに関して巷間いわれること 

ふう、だいぶとばしたな。

マケインは、多くの読者に誤解されているのではないか?

それが僕の疑問だった。

誤解というと少し断定がすぎる。 僕がマケインを読んで感じたこととネット等で見る他の人の感想があまりに違うので、その違和感はどこから出るのだろう、ということ。

違和感のある他者の感想とは、たとえばこういうもの(そのままではなく僕が適当にまとめた)。

『この小説は負けヒロイン(マケイン)たちが面白くも悲しく振られていくさまを描いたもので、主人公の温水はヒロインたちのフォローはするものの基本的には傍観者であり、ヒロインたちとフラグ(恋愛)がたつことはない明るいコメディ・・・』

さて、上記のような感想はどこから出てくるのだろうか?

 ア マケイン(八奈見杏菜)

まずはメインヒロインの八奈見杏菜の言動からくる印象だろう。
八奈見さんは、第1巻の冒頭ファミレスで失恋(正確に言えば自ら恋敵への告白を勧めている)してサラダとスープとハンバーグセットとデザートと山盛りポテトフライを食べながら、幼なじみの袴田草介くんとの思い出を語って涙を流す子である。可愛いし健気だがたしかに食べすぎ。そしてこのファミレスでの(追加注文を含めた)料金を支払えなくて口もきいたことがないただのクラスメートである主人公温水に立て替えてもらう(借金)することになる。1巻の話の流れはこのファミレスでの借金の返済が軸になる。
なお、それ以外にも八奈見さんの大食いシーンは、昔の特撮ドラマ、それこそブースカかキレンジャーかよといいたくなるくらい頻出することになる。

 イ マケイン(おかしすぎる文芸部員)

月之木先輩と小鞠は腐女子、焼塩檸檬は陸上少女。焼塩は2巻のメインヒロインなのでそのときまたふれる。
もう文芸部員おかしすぎ。三島×太宰とかそれに川端絡んだりもだけど、2巻の「梅ジャムは○」とか反則だろ。腹筋よじれてつるかと思った。

 ウ マケインじゃないけど変なヒロインたち


主人公とまじで結婚するつもりの妹佳樹も変だし、2巻の完全犯罪ストーカーさんも変。1巻の勝ちヒロインの姫宮華恋も敗者の八奈見さんの心をえぐるような行動(カラオケに誘うとか)をそこまでするか?というくらい変。このへんはたぶん次巻以降の伏線になるのかもしれない。

 エ 鈍感すぎる男たち


主人公が鈍感なのはしかたない。物語をすすめるにはそう演じざるをえない。
ちなみにこの小説は主人公の一人称語りだが(一部例外あり)、これは『はがない』『俺ガイル』みるまでもなく、語り手は嘘をつける(自覚的にも無自覚にも)という特権を生かすためのものであることはまず指摘しておく。

しかし、それ以外、1巻2巻で結果的にマケインを振った男たちの鈍感さは異常である。文芸部の部長は特に。
普通、もてる男というのはなんでもてるのかというと、女の子の感情・気持ちに鈍感じゃない、わかっているというのが大きい。それなのにこの作品に出てくる男は今のところ全員鈍感だ。正直アブノーマル。しかしそれが一見コメディな世界観を形作るのに貢献しているのは事実。

そもそも、物語の最初を思い出してほしい。八奈見さんが鈍感な幼なじみに「彼女はあなたが好きなんだよ、いってあげて」というところから始まるではないか。
つまり、一見どうでもよい端役?が鈍感でなければこの物語は始まっていないのだ。

この小説をまとめると「マケインたちの行動が面白悲しくておかしい」「他のヒロインも変」「男が主人公含めみんな鈍感」「そのため主人公はフラグがたたず傍観者でしかない」という新しいタイプのコメディとなる(反復すまぬ)。

4 わきあがる疑問

だが、しかし。
フラグは本当にたっていないのだろうか?
具体的に1巻のメインマケインである八奈見さんと温水との間をみていこう。

まず八奈見さんに対する温水の初期の行動をみる。
最初のファミレスでは彼女の気が済むまで話に付き合い、コロコロ変わる表情に見惚れたりハラハラ。
3日後、姫宮に抱きつかれて足がプルプルしている八奈見を助けだす。

では八奈見さんの温水に対する行動はどうか?
昼休みに非常階段に呼び出す。
弁当を食べつつグチをこぼしながら「こんな話友達や知り合いには聞かせられないから嬉しいな」という。
(ここで、温水は「友達でも知り合いでもない=自分は赤の他人」と解釈しているが、本当にそうか?)
八奈見さんを慰める温水に、八奈見さんは料理は苦手だけど弁当を毎日作って借金を清算していくことを提案。

 ここからのお弁当の流れは別に検討するとして、その翌日非常階段で待ち合わせたとき開口一番に八奈見さんが温水に「ひどくない?」といったの意味がわからなかった読者も多かったのでは。
八奈見さんはカラオケでパカップルにはさまれてひどい目にあったという、しかしなぜそれをもって温水にひどいというのか、同情して話をきいてあげているのに、と温水も読者も思うわけだ。
しかし、八奈見さんが期待したのは多分そういう慰め役ではない。ようするに「プルプルのときと同じように、私を助けに来てほしかった」
何もカラオケボックスに乱入して「エイドリアーン」しなくてもいいが(別の意味でひどいし引用映画も間違い)例えば「そんなに嫌なら僕と用事があると断ったら?」とか。

そう、八奈見さんにとっての温水が友達でもなく、知り合いでもない問題、実はこの時点でとても深い。そして、温水も気がついていないわけじゃない。

・・・まだ慌てる時間じゃない。いったん保留にして次のテーマに。

5 お弁当で借金返済?

八奈見さんの家は貧乏で、お小遣いがすごく少ないため、ファミレスの借金を返すかわりに毎日お弁当をつくる。
一見筋がとおってそうだがおかしな点がいくつもある。

まず、最初のファミレスで八奈見さんの所持金が足りなかった。そこはいいだろう。実はお金持ってたけど払わなかった、では嫌すぎるオンナになる。

しかし、八奈見さんはファミレスにふだん入ることが全くない貧乏人なのか、といわれればそれは違うと思われる。温水の目を盗んで?追加オーダーをがんがんするところといい、そもそも幼なじみと入るのも初めてとは思えない(デートという意味ではなく駄弁るのに日常的に使っているという意味)。極端な貧乏家庭の子なら公園のベンチとかコンビニのイートインとかファーストフード店を利用しそうなものだ。
また、カラオケに誘われてしぶしぶついていっているが、さすがにカラオケの料金は自腹だろう(おごってもらうほうがみじめさが倍増する)。
そして初回お弁当はコンビニサンドイッチに自分のお弁当からの卵焼きと唐揚げ。
弁当箱がないというが、百均で100円から高くて300円で買えるし、コンビニでサンドイッチ買う金あるならそのほうがいいのでは?というより素直にそのお金を弁済にあてるのが筋。

そもそもそこまでけちるのなら自分はおにぎりにして自分の弁当箱を温水君に使わせてもいい。こんなことを書くと「なにきもい」と引く人いるだろうが、サンドイッチの次は自分の弁当箱に無理やり二人前のご飯とおかずを圧縮して詰め込んでふたに半分?落として食べさせるというのも赤の他人の男女間でやるのは無理がありまくり。恋人同士でも普通やらない。

この圧縮弁当のときにはきわめて重要なやりとりがある。ちょっと抜書。

「温水君も1回こっぴどく振られてみれば分かるじゃないかな」

「無理矢理周りが進んじゃうから、こっちも進むしかなくなっちゃうの」

さらにその翌日の早朝、物語はめずらしく八奈見さんの主観になる。冷蔵庫の中をあさってとぼしい食材にがっかりしながら、それでも温水のためにがんばって弁当をつくろうとする八奈見さんがかわいい。

そして温水と焼塩さんとのオムライス間接キス事件。
焼塩にとってはその時点ではどうでもいいことでも、八奈見さんにとってはそうではなかったはず。
そのため、

「今日私、友達と買い物にいくから」

となって(たぶん友達との買い物はお弁当容器)、結果としてバスケットになる。

このバスケット弁当のときもまた大事なやりとりが二人の間で行われている。

「こんな話できるの温水君くらいだし」

「私もぬっくんと呼んであげようか?」

いったんここまで。

これは僕の推測でしかないが、八奈見さんの弁当での借金返済計画はけっこう余分な出費を強いられている。たしかに数百円レベルかもしれないが本当に返済優先なら意味がない。次回のお小遣いで一括して払うのほうが温水も助かる。お小遣いが全くないとは思えないというのは前述した。
また、八奈見さんの家は週末に近所の家族とバーベキューをやる予定をたてるくらいにはこの時点では経済にまだ余裕がある(ただしこれは嘘かもしれない)。
肝心なことは、八奈見さんはバーベキューを欠席するためという名目で文芸部の合宿に参加するわけだが、宿泊費交通費などの費用は当然かかる(あたりまえ)し、当然親から最低でも1万円はもらって即金で払ったはず。

ようするに、お弁当をつくるという話も、なにをするか知らない(たぶんふりだと思う)文芸部に入るのも、合宿にいくと言い出すのも、本来なら忘れたい振られた彼氏の話をするのも、他に温水と共通の話題がない(あっても部活の女の子というさらにやばい話題)から一生懸命がんばってフラグをたてようとしているのではないか。

八奈見さんはプルプルで助けてもらったときから温水にずっと好意をいだいていて、あえていえば猛アタックをかけている。

それが「進むしかない」という意味だと僕は思う。

6 なぜ八奈見さんは温水を(一度は)振らなければならないか


ここまで読んで

「こいつなにいっとるんだか、八奈見さんは合宿で
『いいよ、告白して。断るけど』
といったり
『ごめん、君のことは友達だと』
とはっきり断っとるやんけ。マケインちゃんと読んだんか」

とお怒りの方もいるであろう。

 もちろん、ちゃんと読んでいます。

結論からいうと、八奈見さんは温水に好意を持っている。しかし、現状のままでは付き合えない。なぜなら、温水は八奈見さんが振られたところを見ていて、なおかつそれからずっと励ましてくれているから。そして、今でも八奈見が幼なじみのことが好きだと思っているだろうから(これは八奈見がそう言い続けているのだしもちろん全くの嘘というわけでもない)。つまり八奈見さんからみたら温水は自分の弱みを握っている、精神的には温水のほうが優位(にみえる)。
考えてみてほしい。ずっと好きだった人がいて振られたという女が、すぐに優しくしてくれたからあなたに乗り換えるなんていえるだろうか。いや、いえる子もいるだろう。しかし八奈見さんは誇り高い。自分が大食いと思われるのはよくても、悪い意味で尻軽というか涙で相手にすがるみたいには思われたくない。

だから、「振られた女」と「慰める男」という関係を一度フラットに戻す。弁当をつくってくるのも同じ部に入るのも、ようはそのため。たしかにいったん友達になるのが目的ではあるけど、それは決して女子が「あんたなんか私に近寄るんじゃない」という普通に使う意味でのそれじゃない。

本当に千にひとつ、あるいはこの作品くらいでしか該当しないかもしれないけど、

「まずは友達から始めて、二人の仲を深めていこうね」

僕はそういう話だとマケインの1巻を読んで思いました。

長くなったのでとりあえずここまで。

はがないや俺ガイルとの関係性はまた補充か別稿に。

長文読んでくださりありがとうございました。

第2回はこちら


第3回はこちら




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