長閑浜のデネボラ 1の1 6:17

ピピピピッ ピピピピッ ピピピピッ

枕元のスマートフォンのアラーム通知をベッドの中で止める。
不思議なもので、セットした10分前には意識が覚醒するようになってきた。

ディスプレイには6:00と表示されている。
ロック解除するとブルーライトの強い光が目に刺さる。
堪らず片目になりつつも、SNSアプリを開いた。
ダンス、空模様、インテリア、、どれも似たようで異なる動画をぼんやり眺める。スクロールする指は止まらない。きっと、口は半開きだろう。
次はゲームのログインボーナスだけ受け取った。

うつ伏せから仰向けに体の向きを変えながら、掛け布団をずらしてベッドから降りた。
腕を思いっきり突き上げて体を伸ばしながら、光が漏れている窓を見る。
カーテンフックが壊れ、端が詫びるように頭を垂らしていた。
両手で勢いよくカーテンを除けて窓を開けると、外の空気が入ってくる。

両腕をさすり、数歩分の小走りで浴室に入った。
シャワーを浴びて体温が戻ってくると、完全に一日が始まる。
若い頃は気にしなかった不精ヒゲも、今の接客業ではそうはいかない。
ジェルを乱暴に顔面につけると、面倒くさいが丁字カミソリで剃った。
洗面台を兼ねたキッチンで髪を乾かし、水出しの麦茶を一杯飲むと部屋に戻った。

火口が一つのコンロ。
コンデンサの音が気になる冷蔵庫。
冷蔵庫の隣に吸引力が変わらない掃除機。
2センチ厚の板を四本の円柱で支えるテーブル。
学校の体育館で使われているような折畳椅子が2脚。
木組みのベッドフレームに30cm厚のマットレスと寝具。
タブレットPCで足りる為、テレビとミニコンポセットは人に譲った。
本棚もなく備え付けに、持ち物は全て収まっていた。

クローゼットから会社の制服を取り出した。
紺地に社名が入ったジャケットとスラックス。白のワイシャツにネクタイを結び、タオル生地のハンカチを尻ポケットに入れた。
テーブルにある財布をシャツの胸に、鍵はパンツの右ポケットに入れる。
スマホは左ポケットに入れて腕時計をつけると、窓の施錠をした。
履き慣れない革靴を履くと、郵便受けがついた扉から外へ出た。
鍵をかける前に、財布やスマホの定位置をポンポン叩いて点呼を取るのは習慣だった。

#小説
#良くない

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