長閑浜のデネボラ 1の2 通勤

何の特徴もない1Kアパート。
くすんだ白を何度か塗り重ねたレンガ模様の外壁には、黒文字で「キャッスル」と書かれている。
8部屋あるうちの一番東の2階の角部屋が、おれの部屋だ。
駅近のWiFi付き物件。賃料が他より割安なのは築年数の所為だろう。
手すりにさび、足元にヒビが目につく階段を降りた。

中古で買ったスバルに乗り込み、アパート前の細道から東西に伸びる国道へ左右確認しながら出た。
国道はワンマン運行の単線鉄道と並走している。国道沿いで最寄り駅前のコンビニに寄った。
自動ドアから店内に入ると軽やかなメロディと共に「いっらっしゃいませー」の声に迎えられる。

すぐに左折して雑誌コーナーへ足が向かうのは長年のクセだった。
電子書籍で済ますので、用はないが並べられた雑誌を横目で見る。
立ち読みする客を繁盛しているアピールと防犯効果に役立てていると、昔にテレビの特番で聞いたことを思い出した。
飲料コーナーも通り、店内をぐるっと一周まわるように歩き、パンを一つ持ってレジでカップコーヒーを注文した。
電子決済を終え、レジ横のコーヒーメーカーでホットコーヒーを淹れた。

車に戻るとパンを食べた。近年、コンビニもプライベートブランドに力を入れているらしく、コストパフォーマンスに優れた商品が多い。
このパンとコーヒーも拘って開発されたのだろう。
プロの料理人が評価している物もあり、合格されたことをポップでアピールしていた。

ラジオのベテランパーソナリティが、リスナーの名前とメッセージを読み上げながら、いろいろなキャラや有名人のセリフで誕生日を祝っている。
10分くらい運転をすると渋滞に入った。平日なら毎度のことだ。
南北に流れる一級河川の支流を渡る為に、橋へ交通集中するからだ。

渋滞の時間を利用して、飲み終えたコーヒーカップに、パンの袋を入れてゴミをひとまとめにする。
国道に合流してくる車を、暗黙のルールで一台づつ譲りながら30分くらいかけて渡った。
渡りきるとまた快調なスピードを出せるのだが、ゴールはもう目と鼻の先だ。

橋を渡って二つ目の交差点を右折すると商店街ではないが、シャッターは目立ちながらも昔からの小売店が立ち並ぶ“山城通り”がある。
おれは三つ目の交差点を右折するので、山城通りの一本西側を並行する道に入った。
右折するとすぐに見える「山城タクシー」と書かれた錆びた看板がある。
浜川市山城区にある、おれの勤務先だ。

#小説
#良くない

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