『春琴の佐助』個人的なあとがき・記録
・はじめに
2024年10月31日(木)〜11月3日(日)に六行会ホールで上演されたイクニプロデュース Readin in the dark『春琴の佐助』無事に終演しました。ご来場下さった皆様・配信で視聴して頂いた皆様、あらためて本当にありがとうございました。
『春琴の佐助』は、幾原邦彦×淡乃晶(+淡乃晶作品を作ってきたチーム)×ILLUMINUS(舞台制作会社)のコラボによって立ち上がった作品です。
ReadingCastの皆さん(村瀬さん、小林さん、堀江さん、伊東さん、斉藤さん)の素晴らしいパフォーマンスのおかげで、この作品に命が宿りました。そしてキャストと並び、スタッフワークもこの公演にとって欠かせないものであり、どのピースが欠けても成立しない公演だったと思います。
このnoteは脚本・演出の淡乃晶の視点・スタッフサイドから、企画立ち上げ〜公演に至るまでどんなセッション・クリエイションがあったのかのメモを、終演後の記録として残すものです。
※本編のネタバレがあるかもしれないのでご注意を。
(配信アーカイブは今週末までご覧頂けます)
・企画のきっかけ
自分が企画・シナリオとして携わった百合音声作品『イルミラージュ・ソーダ〜終わる世界と夏の夢〜』を幾原さんに聴いてもらったことで繋がりが生まれ、一緒に創作をしていくことになりました。イルミラージュ・ソーダから始まっているので春琴の佐助には、この作品の要素が多く取り入れられています。(音や言葉、モチーフなど)
半年〜1年以上かけて企画を揉んで、春琴抄原案の朗読劇をやるに至るのですが、このあたりはビジュアルブックの幾原邦彦×淡乃晶の対談で触れてますので、ご興味があれば。(ブックは通販で購入できます ※2024年の年末まで)
幾原さんと挑むのなら、あまり規制や制限のない環境がよいだろうと考えて、ILLUMINUSさんに企画を持っていくことにしました。
ILLUMINUSさんとはVoicecore Reading Poetrium『花羽音』という作品でご一緒しておりました。花羽音は、一般的な朗読とは違うかたちで声と音と言葉を探求するという実験的なパフォーマンスであり、挑戦的な作品にも関わらず乗っていただけた経験がありました。プロデューサーの小宮山さんに持って行ったところ、ぜひということになり、今回のコラボが始まったのです。
・スタッフについて
企画がスタートした瞬間に自分がやったのはスタッフ集めでした。幾原さんとやる企画にあたって、勝負できて尚且つクリエイティブに対して真摯なメンバーに声をかけました。自分と一緒に作品を作ってきてくれたスタッフメンバーです。
・音楽・live DJ:北島とわ(Portowal birch)
・美術:村上薫
・照明:阿部将之(LICHT-ER)
・音響:斎藤裕喜(Québec)
・衣装:狛枝トーマ(青龍ノ宴)
・演出助手:長谷川雅也(BMG)
・舞台監督:小川陽子
・アンダーキャスト:大井克弘(fragment edge/劇団FIFTH Units)/唐井萌々子(EARLY WING)/椎名奈帆(三木プロダクション)
・宣伝美術・スチール撮影・アートディレクション:圓岡淳(Atelier caprice orchestra)
みんな企画に乗ってくれて本当に嬉しかったし、頼もしかった。
文脈としては、fragment edge/舞台版 華枕〜願い巡りて〜/Stray Sheep Paradise/朗読劇 さよならローズガーデン/キミに贈る朗読会 春とみどり/革命と承認のボンボン、あたりに関わっているメンバーです。(全員がぜんぶに関わっているわけではないです)
幾原さんと打ち合わせしたことを踏まえて、各スタッフと自分で打ち合わせしていく形式で公演の準備を進めていきました。
・ビジュアルについて
ビジュアル方向性は任せて貰えたので、自分の方からキーワードやアイディアを出して圓岡淳さんと打ち合わせをし、アートディレクションして頂きました。今回の題材、男性キャストで耽美な世界、となれば絶対淳さんがよい…!と思っていたので、5年ぶりにご一緒できて嬉しかったし、なにより公開してお客さんに喜んで貰えてよかったです。淳さんとコラボする時、基本的に撮影のセットを1から作るのですが、今回はセットを作るのに3日ほどかかったり…。多くの人のお手伝いのおかげで、撮影空間が出来上がりました。
・淡乃晶・圓岡淳、過去のコラボ(一部)
・脚本について
幾原さんと意見交換したアイディア、体感と体験・感情で構成するなどを意識して、構成を組み立てて第一稿を完成させました。そこから幾原さんの意見を反映して修正を加えていきました。(最終的には第六稿くらいまでやりました)終わらせ方・最後の方が一番やりとりして、二人で考えて、今の結末になりました。(このあたりもビジュアルブックの対談に…)
自分の言葉をほぼ採用して貰ったのは、幾原さんがバランスを考えてだと思うのですが、多くの部分を任せて貰い大変光栄でした。幾原さんの作品に影響を受けて生きてきた人間として、役目を全うできていたなら幸いです。
余談ですが、個人的に気に入ってるセリフ。
「手を引いているのは僕なのに、あなたに導かれているような気がする。」
「……叩いている私の手だって、痛いのに」
「……天鼓も死んでしまったな。あの鳥も、永遠でないから、うつくしかった」
「おまえがいる限り、私は私だ」「あなたがいる限り、僕は僕です」
・演出について
脚本同様、幾原さんのアイデアやヒントを元に、舞台演出(美術・光・音・衣装など)は淡乃チーム主導で行っていきました。ポイントは抑えつつも自由にやらせて頂けたので、その信頼を裏切らないように自分のできる手段を尽くしていきました。(演出の方針は、販売用台本に演出メモをのせているので、ご興味あればぜひ)
幾原さんにはアンダーキャストの稽古からすべての稽古に足を運んで頂き、その度にフィードバックを重ねて、話し合いを重ねた結果が、本番には反映されています。
以下ポイントのみを。
《紙を捨てるスタイル》
読んだらそのページを捨てる演出は、2023年の花羽音から取り組んできたものです。花羽音の他にも、キミに贈る朗読会、春とみどりなどで繰り返し実践してきており、今回も採用しました。本という形態ではなく紙を捨てて読む演出効果はさまざまあるのですが、これはいつかのタイミングで。
ちなみにランダムカードは、花羽音でやった詩のカードをひいて読むという演出から着想して取り入れました。佐助が春琴に振り回されている様子を圧縮して体感に導けたのかなと。
《音・音の演出について》
舞台演劇から朗読までサウンドアーティストの北島とわとタッグで創作をし続けてきましたが、今回も一緒に挑みました。特別だったのは北さんがlive DJで入ること。小規模なものでは北さんにプレイして貰ってきましたが、この規模でも、いつも通りやってきたスタイルができる、というのは自分としても有り難かったです。暗転中、音の時間になるSound Poetrium timeは今年北さんと朗読を作る中で取り入れ始めたもので、ここでも実践できました。
今回幾原さんとめざす体感と体験する朗読には、舞台とASMRの皮膚感覚を通過した彼の力が必要不可欠であり、北さんが参加しなければ企画自体が成り立たなかったと思います。
ト書きで示したりアイディアを投げつつも、音・演出のその詳細・音響細工は北島とわによるものであり、彼と彼のチームPortowal birchの音、彼の演出・プレイが、作品世界の核であったことは言うまでもありません。
・おわりに
幼い頃に幾原さんを作品を通して見つけて。
そして大きくなって作品を通して幾原さんに見つけられて。
今まで活動してきたすべてを使って一緒に作れたことは、
自分の人生で特別なものとなりました。
また春琴の佐助については、どこかで話すと思います。
その時はぜひみなさんともお話ししたいです。
幾原さんの新作が見たいと常に想って生きています。
2024年、新作を見ることができました。
また未来でも見たいです。
今回、公演ができて幸せでした。
ありがとうございました。
2024年11月7日 淡乃晶