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『春の惑星 -R.I.P-』

この星で きみと迎える春 の記憶 の記録

お母さんから生まれたときって、こんな感じだったのかもしれない。
出口のわからない暗闇、どこに向かっていいかもわからない暗闇。闇。
それってたぶん、きみも同じだったよね。
わたしたち最初から、同じとこにいたんだよね。そう考えると不思議だね。

暗闇から抜け出した先、別々の場所で光を浴びて、またこうして一緒になった。
今、この星に生きる人はだいたい77億らしいから、
わたしときみってば、77億分の1の、再会だ。
天文学的な数字は途方も無くて、
わたしたちの出会いを壮大でドラマチックにしてしまうけど、
結局それって数字でしかないから。
数字はわたしたちのこと何も知らないから。
何も測れない。

わたしときみのことは、わたしときみしか分からないもの。分かち合えないもの。
ここには、わたしときみしかいないもの。

たとえこの瞬間、火花のように星が燃え尽きて、最後の春になったとしても

どれだけだって、いいんだよ。
ここに残すことに、意味があるんだよ。
ここにいたことが、意味があるんだよ。

そう強く、祈る。

きみは、わたしの春だった。わたしの春は、きみだった。
きみに会うまで世界には、夏と秋と冬しかなかった。
偏りのある季節は、生きたままわたしを標本にした。
試験管の中に心を入れて、熱に焼べて。
いつ砕けるのか眺めていると安心した。
自分を他人事にすれば、いくらでも虐待できた。
何も所有しないことで人生をおざなりにして、
透明のままこの星と同化する道を選んだ。
呼吸を忘れるほどの痛みを無私化し、
命の実験を身体に刻み続けた。
そう、春が、生まれるまでは。

きみを諦めないから。
きみを離さないから。
きみだけは渡したくないから。
意味があるんだよ。
意味がなくたって、あるんだよ。

きみがいなくなるかもしれないと思う宇宙。
きみがいなくなってから、もうどれぐらい経つんだろうね。
いなくなったって気がしないんだよね、実際。
愛おしくて狂おしい日常のなにもかも。
わたしは許しません。許さないから。絶対に。

優しい顔、頬染める夕暮れ。
絶対に誰も触れさせたくない唇にキスをして。
生を確かめた聖なる時間。

ちゃんと、みててね。
迷子になって見失ったときも
ちゃんと、光っていてね。

忘れないもの。忘れないこと。

これだけはずっとずっと信じられるのは、
そう信じるしかないって信仰のようにすがっているのは
きみを愛するわたしの気持ちは不滅だってこと。

たとえ生きるも死ぬも、真っ暗な宇宙だったとしても、
たとえこの世もあの世も、真っ暗な宇宙だったとしても、
たとえわたしたちの心も体も、真っ暗な宇宙だったとしても、

不滅だ、不滅なんだ。



(五月くらいに書いてた一人芝居より部分的に抜粋。数ヶ月前の情動。)

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