あわたび、始めます。
かつて安房国(あわのくに)とよばれた千葉県房総半島。ほぼ中心にある鴨川でたちあがった「小さな地球プロジェクト」の活動を中心に、豊かさの本質を再発見できるような里山文化や、パイオニアとなる人たちをご紹介していきます。
あわの国を旅する、あわたび。思わぬ歴史が潜み、どこか懐かしいタイムトラベルのような体験もできる土地の物語がたくさんあります。
プロジェクトのビジョンは「美しい村が美しい地球を創る」
小さな地球プロジェクトは、里山の原風景を次世代に手渡したいという想いがつまっています。発起人は鴨川の集落で自然と人、都会と田舎をつなぐ様々な活動をされている林良樹さん。その原点は旅にあり、20世紀末の混沌とした世界を放浪し、多様で時には過酷な自然環境でくらす民族やコミュニティの価値観を肌で体感されてきました。
その地球人として自然を感じる感性は詩的で哲学があり、本質をとらえた視点で、人の支えとなる力のある言葉で語りかけてくれます。覚醒に満ちた長期に渡る旅で、内なる自らの声を聴き、生き方を問い続けてきた林さんが辿り着いたひとつの答えがプロジェクトに体現されていると思います。
《小さな地球プロジェクト 林 良樹さん》
鴨川から“ 新しい生き方 ” を発信
世界を巡った旅のあと鴨川に移住した林さんは、棚田の村に生きた先人たちの知恵に感動し、今を生きる長老たちの土地の物語に聴き入り、集落の住民総出で助け合う結(ゆい)の優しさに助けられたと言います。女性や子ども、お年寄りなど社会的に弱い立場でいる人こそ幸せに「生きていて良かった」と思える社会をつくりたい。自然循環の一部として生きる人のくらしから学んだ豊かさ、社会への一石が、小さな地球プロジェクトなのかもしれません。
田植え、稲刈り、しめ縄づくり。四季折々のイベントで訪れる里山はハレの日で賑わい、とても楽しい。また日々のくらしの中で、田んぼや森の静寂に潜む無数の生命の流れと深く本能的につながる時間は自分を深めてくれます。心から湧き上がる豊かな気持ち。感謝や祈りで人は純粋に豊かになれることを自然とのつながりが教えてくれるのです。
あわたびの想い。
南北に長く、約7割が森林の私たちの島国。花の首飾りに見立てた花綵列島(はなづなれっとう・かさいれっとう)とも称される美しい四季の巡りがあります。自然と人のくらしが近い里山の魅力は、水の豊かさや空気の気持ち良さなどの資源だけでなく、足るを知る品性があり、ほっこりと心地良いくらしの時間が流れています。
ローカルの土着的な個性、面白さや豊かさを味わうと、土地や人への懐かしさが増し故郷のような居場所になっていきます。その心地よさは人を変え、衣食住の選択に影響し、社会も変わってゆく。社会に溶けている思想が柔らかく優しくなって、感謝の巡りになっていけたらと願っています。
あわ地域は移住者も多く、人生を楽しむ面白い人や場所がたくさんあります。都心から訪れる人と、その点と点が多様につながるようにしたい。この土地でしか出来ない、ひょっとしたら人生を変えてしまうかもしれない体験を旅という形にしたい。そんな土地の物語をお届けできればと思います。
文:あわたび 橘 聖子