里山の雑穀料理がくれた目覚め
雨水だけで耕作する天水棚田のお米(自然酒)づくり。年間通して天候や獣害などに気を揉みながら、秋にはハレの日、収穫祭を迎えます。そんな折にはとっておきの入魂料理が定番で、中でもマクロビ料理を作る雑穀料理人の米山美穂さんからは、生き方につながる何か大切な答えを感じています。
土地の旬のものを、丸ごと食べるという理を貫き通した調理法。五臓六腑にじんわり沁み渡る温かさと、頭頂にまで冴え渡る食べる喜び、凄まじい高揚感。素材が最高に美味しい瞬間にときめきながら、精進料理のような思想さえ感じてしまう。
調理のあいだも素材と対話しながら、命をいただくことに祈りを捧げているのではないだろうかー。そんな想いが募り、つくり手の原風景と源にある心のあり方に触れてみたくて「あわ里山ごはん“るんた”」を訪ねました。
命をつなぐ台所「るんた」 米山美穂さん
安房国(あわのくに)の名を継いだ鋸南町(きょなんまち)。雑穀が好きな料理人にとって粟(あわ)の音と響きが重なる地名もご縁だったそう。妊娠・出産での体の変化が食をみつめなおすきっかけとなり穀物菜食を学び始め、マクロビオティック料理を極める師範にまで到達。その道のエキスパートとして活躍するも、都心生活での自然農の実践に限界を感じ、同時に子育ての場として移住を決めることになりました。
もともと学生時代から旅が好きで、アジアを巡り記事に起こしていたご経歴もあるとか。先を読む直感力と判断力がなければ出来ない現地取材を、飄々と楽しめる自立した女性。その磨かれた感性が経験したいくつもの旅を消化して吸収するに及ぶ安住の地として、天と地の調和を持つ「あわ」に惹かれたのは魂の導きかもしれません。
土地に根付くというのは、土地の言葉を聴くこと。人も神羅万象のゆらぎの中で、生きものの波長に委ねて生きることが環の一部だと、旅の記憶が導いたのではないでしょうか。
《地元の木と土と竹で、修理しながらつくり続ける「土に還る家」。旅で見つけた愛着のある器たち》
自然農から学んだ巡る命の世界観
移住への迷いは無かったのでしょうか。美穂さん曰く、子育てにも通じる「自然農」が揺らぎのない指針になったそう。例えば、生命力の高まった採れたての旬野菜を食べたとき、移住前まで心掛けていた食へのこだわりは打ち砕かれて「都心での食は商品だった」と気付かされる。産地から運ばれるまでに命が減り、さらに加工すれば命が消滅してモノになる。豊かで便利な世の中になったはずなのに、経済や効率を優先にした生活は健康を保ち辛くしてしまったー。移住してからの日々の発見は愕然とする悟りのように、腹落ちするものだったそう。だからこそ美穂さんの伝えたいメッセージは一貫しています。
食べることは命をいただくこと「まわりてめぐる すべてのいのちに感謝します」
「自然界の動物と同じように、歩いて手の届く範囲の旬のものをいただくこと。命を食べることで自然界とのつながりを保っていけるのだから、なるべく命をそのまま繋げられる料理にしたい。壊さないで、次の命につながっていく料理にしたい。
自然界でいきものは自分の命を守りつないでいく。誰かのためではなく、自分の命をまっとうするために全身全霊をかけて生きている。人もそれで良いのではないだろうか。一生懸命に生きる姿を子どもたちはみて育つのだから、誰かの犠牲にとか気負わなくて良いと思う。」
耕さないことを大切にしている自然農。そこに生きる草や虫、微生物などの無数の命のざわめきがつくりだす環境に任せ、肥料や農薬も持ち込まないとか。常に見守り、手を差しのべる必要を見計らうのは子育てと似ていて、森林に囲まれた暮らしは、自然と共に生かされる命である自分の存在を教えてくれると言います。
移住にはじっくり2年をかけ、春夏秋冬の土地の変化も観察。番地も無かった山の中腹に「ここが良い!」と最終決定を下したのは娘さんだったとか。さすが直感力も親譲りかもしれない。美穂さんが気分がのらないで作った料理を見分けるほど繊細で感受性が豊かな子どもが相手、だから心が向かわない時は調理を一切しないと決めている。直感が研ぎ澄まされるくらしで、そのまま伝わることも大事にしているそうです。
命への尊厳がある豊かさ
妊娠・出産での自覚が始まりという運命的な転機。身の上に起きた変化で目覚めた食との向き合いは、頭で理解する次元ではないのかもしれない。確かに受胎はヒトの原点、太古のリズムを蘇らせる覚醒の機会で、誰もが記憶を宿しているはず。
三木成夫さんの生命記憶によると、胎児の世界では1億年の進化が再現されるそう。受胎32日目から1週間の間に水棲から陸棲段階へと変身を遂げ、そのあたりで母親は悪阻で食べ物の嗜好が激変したり嗅覚が過敏になったり連動していきます。「母なる地球」とはまさに言い得て、胎内で聴く母親の血流音は波に近い。どこか懐かしい宇宙からの視点で、みんなが地球の子だと考えてみたくなるのです。
屋号“るんた”はチベット語で「風の馬」という意味。チベットではその名を持つ魔除けと祈りの旗を掲げて平和を祈願しています。命のつながりの神秘さは美穂さんの死生還にもつながっていて、チベットでの鳥葬に憧れたそう。心身ともに地球へ還るような死生観は穏やかで、道を迷わない強さを持つ人は、とても優しいと感じました。いきものを相手に営みがあるというのは、命への尊厳があってなんて豊かなのだろうと。
最後に今後の展望を聞いてみると、未来をつくる子どもたちの教育を想い描いているとのこと。子どもが夢を持ち、生きることが楽しくて、地球は素晴らしいと感じられるようでありたい。地域とつながりを持ちながら、教育の現場で面白いプログラムが作れたら嬉しいとのこと。未来をみつめる料理人は、医者であり、哲学者であり、心理学者であり、平和的な戦略で地域を変えていくひとりの優しいお母さん。あわたびで是非、出会って欲しいひとりです。
《100%植物性の雑穀料理。調理器具の仕様にも食べる人の健康と自然環境への配慮をしています》
《るんた 米山美穂さん(左)/ あわたび 戸沼如恵(右)》
文:あわたび 橘 聖子
「あわ里山ごはん るんた」情報
Satoyama Cuisine for Vegan
あわ里山ごはん るんた
https://www.awalungta.com
※完全予約制となります
上記サイト「Contact」お問い合わせ・ご予約フォームをご確認ください。
アレルギー対応のスイーツのほか、お弁当、ケータリング、料理教室もご相談できます。「Catering」をご参照ください。
あわたびのおすすめポイント
—————————————————————————————
1.男性も満足できる至福の雑穀料理
素材の命をなるべく壊さないで次の命につなげたいという視点でつくる、穀物と地元の旬野菜や海草を使った100%植物性(vegan)の絶品料理。
2.敏感な子どもの舌も唸らせる美味しい里の恵
動物性由来の食材、白砂糖、化学調味料、添加物等は一切使わず、できる限りオーガニックの安心できる食材、伝統製法でつくられた自家製の調味料を使用。
3.自然農とセルフビルド
満つれば欠くる世の習い。完成させるのが忍びないというセルフビルドの自然素材の家。心地よさと自然循環を大切にした美しい里山暮らしは移住の参考に。
—————————————————————————————