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サントエルマの森の魔法使い #2<鐘の鳴る街>マーグリス

第2話 <鐘の鳴る街>マーグリス

およそ半年の時を経て、父の手がかりを辿たどり、ラザラ・ポーリンは<かねの鳴る街>と呼ばれるマーグリスにいた。

それは、彼女にとって大冒険であった。

早熟そうじゅくだった彼女は、自分が世間知らずだと思ったことはなかったが、この半年間というもの、世界の広さ、人々の多様さに圧倒されっぱなしであった。

港湾都市こうわんとしソーディスでは、白壁の街並みに、無数の帆船はんせんが並ぶ姿に圧倒された。

大陸沿いに南東に向かう船上では、太陽が沈んだ直後にこそ、海が最もあかく輝くことを知った。

賭博とばくの街>マハムでは、魔法使いでもない人が手先の器用さでイカサマをするのを見た。もっとも、サントエルマの森を一歩踏み出ると、かなり腕のいい部類の魔法使いに入る彼女にとって、イカサマの更に上を行くのは容易なことだったが。

そして、お金は万能ではないが、色々な目的を達成するのに便利なものであることも学んだ。

<冒険者の街>リノンでは、人々が生きる理由の多様性を知った。魔法使いとして大きく成長し、貴重な友も得た。「お金で人を雇う」ということも経験した。

そして<ほろびの都>ザルサ=ドゥムでは、生まれて初めて死に直面するという感覚を知った。

そこから“大湿林だいしつりん”と、いくつかの寒村かんそんを抜けた。野盗のごときは、ごく初級の呪文を唱えるだけで恐れをなして逃げ出すものだ。魔法使いは希少で畏怖いふの対象となる存在であることを、改めて実感した。

そんな旅を経て、彼女はいまマーグリスにいる。

護衛に雇っていた戦士やドワーフたちとは、ここで別れた。魔法使い以外の知り合いと寝食をともにするのは興味深い経験であった。

“サントエルマの森”を知る者はいなかったので、身分を詳しく明かすことはしなかった。炎を操る魔法を得意であることや、逆境に陥ったときに垣間見せる激情から、仲間たちは彼女を「烈火れっかの魔女」と呼んでいた。

「烈火の魔女」―――――サントエルマの森では半人前であろうと、魔法使いの腕は一流であることを改めて思い起こさせるその異名を、彼女はちょっぴり気に入っていた。



<鐘の鳴る街>マーグリスに、夕刻を知らせる鐘の音が響き渡る。

邪悪を払うという言い伝えのあるその鐘の音は荘厳そうごんで、彼女の心につかの間の平穏をもたらした。

彼女は、<銀の馬蹄ばてい>亭という宿に一室を借りていた。

日が傾き、黄金色の光が室内に差し込む。古い木製のテーブルの上には、強力な呪文をかけられた木彫りのトーテムを置いていた――――彼女の切り札の一つだ。

彼女は支度をして、宿を出た。

準備は万端。

旅を通して、彼女の力はかつてないほどに高まっている。

目指すのは街の中央にある、古代の神殿のようにも見える建物である。円柱状に巨石を積んでくみ上げられたその建物は、かつて偉大なる魔法使いサウラが建てた大博物館、あるいは<偉大なる記録庫>と呼ばれていた。

しかし、そこにはある秘密があることを、彼女は知っていた。

(つづき)

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