なぜコーチは倫理に向き合い続ける必要があるのか
コーチが行動の指針とするものの一つにコーチとしての倫理があります。
倫理とは行動や姿勢の規範となるもの。
コーチングの世界において代表的なものはICF(国際コーチング連盟)の定める倫理規定です。
ICFの資格を持つコーチだけでなく、多くのコーチングスクールやコーチングに関わる団体がICFの倫理規定を尊重することを表明しています。
ICFの資格を取得するためには実技(録音審査)に加えてCKA(Coach Knowledge Assessment:コーチングの基礎的な知識があることを確認するためのテスト)に合格することが必要であり、さらに資格を更新するためには3年間の間に40時間以上のトレーニングを受講することが必要ですが、そのうち最低3時間は倫理に関する内容であることが求められています。
なぜコーチは資格取得後も倫理について継続的に向き合う必要があるのでしょうか?
「倫理」に関する4つの視点
「倫理」とはどのようなものを指すか、どのようなことが倫理的なのかについて、『「倫理の問題」とは何か 〜メタ倫理学から考える〜』では4つの視点が紹介されています。
このように「倫理」とは何か、「倫理的に優れている」とはどういうことかについて異なる複数の視点があります。
ICFの掲げる倫理規定とはどの視点の倫理のことを言っているのでしょうか?
道徳性の発達の6つの段階
心理学者のローレンス・コールバーグは道徳性というのは発達するものであり、道徳性の発達には大きく6つの段階があることを唱えました。
コールバーグの道徳性発達理論には批判や反論もありますが、認知や自我などさまざまな領域において人間の意識がその発達を段階という視点から捉えられるということは各分野の研究者によって明らかになっています。(段階はあくまでモデルであって実際には複雑に変化・変容するものですが)
倫理の基準に行為基準と見方基準が含まれていることからも、表面的に同じに見える行為の奥にはさまざまな意図があり、世界の見方そのものも変わりうるものだと言えるでしょう。
「コーチとして倫理を大切にします!」と表明しているとしてもその奥には「守らないと罰を受ける」「その方が報酬を得られる」「他者から承認が得られる」「偉い人がそうしている」etc…といったさまざまな背景がある可能性が考えられるのです。
コーチとして倫理的であるとはどういうことか
ICFの倫理規定は大きく4つのセクションで構成されています。
4つ目のセクションが示すのはコーチは直接関わるクライアントだけでなく社会に対して責任があるということ。
この社会的責任の最後の項目は次のようなものです。
自分自身だけでなくクライアントが社会に与える影響を認識し、「善を行う」ということが求められる。
ではここで言う「善」とはどのようなことを指すのでしょうか?
何が「善」なる行いかについてICFの倫理規定では明言されていません。
もし、何が重要なのか、何が理想なのか、どのような意図を持てばいいのか、明確な姿があるのであればきっとそれらは示されているでしょう。
倫理規定のうち一部は具体性が高いことから、重要性や理想像を示しているものと捉えることができます。また、より具体的な行動や意図(マインド)ついてはコア・コンピテンシーで示されています。
一方、倫理規定の中でも抽象度の高い項目については、コーチは世界の見方そのものを発達(変容)させていくことが求められていると捉えることができます。
コーチは「善い行い」を守ることができるのか
たとえばあなたがコーチだとして、あなたのクライアントが代表を務める会社が組織ぐるみで不正を行なっていることを知ったらどうするでしょうか?
「そんなことは断固許せない、『善い行い』を目指して話し合う!」と思われますか?
現実は思ったより複雑です。
あなたがクライアントから高い報酬を得ていたらこれまでの関係から逸脱したことをするのに躊躇するかもしれません。
あなたがそのクライアントに対して経営者として憧れを持っていたらそれが不正であることすら気づかないかもしれません。
あなたが組織内コーチとしてコーチングをしている場合はどうでしょうか。
もし人事部から「退職の兆しや希望があれば教えてほしい」と言われたらどうしますか?
もしくは組織内のコーチングの仕組みを管理している部署に「とにかく教えられた型通りにコーチングしてくれ」「決まったテーマだけを扱ってくれ」と言われたらどうするでしょうか?
もしあなたがお世話になっている人から「知り合いの経営者が組織にコーチングを導入したいと言っている。やる気を出させて業務効率を上げてほしいそうだ」と言われたらどうするでしょうか?
抽象度の高いテーマに向き合うときのポイント
ICFの倫理規定は比較的具体的に記されている箇所もあれば抽象度高く表現されているところもあります。
このときに重要になってくるのが、抽象度が高い箇所を一度自分自身にとって非常に具体的な出来事に置き換えてみるということです。
たとえば、「常に最高品質を約束するために、個人的、専門的、および倫理的な開発を継続します。」という項目について。
今のあなたにとって「最高品質」とはどのようなことを指しているのでしょうか?
さらにどのような状態になる可能性があるでしょうか?
今あなたに必要な専門的な開発とは具体的にどのようなもので、今のあなたはどのような観点からものごとを捉える傾向があるでしょうか?
自分がどのような視点や行動特性を持っていて、どのような判断をするのかというのは現実的な課題にぶつかって初めて認識することができます。
最終的には抽象度の高い言葉で表現するとしても、まずは現実的な体験と向き合い、葛藤することが重要です。
コーチの倫理規定で言うと、倫理規定と向き合うだけでなく、自分自身に起こった(もしくは起こりうる)出来事についてさまざまな角度から検証することがその一歩となります。
倫理は一度学んで終わりではなく向き合い続けるもの
道徳段階説を唱えたコールバーグは、自分が所属している団体や他者にとらわれずに自分自身の内的な善悪判断の基準を持つことができる後慣習的水準(脱慣習的レベル)に到達している人は10%から15%だと述べています。
歳を取り経験を経れば必ずしも道徳的な発達が起こるかというとそうでもないということです。また、どのような視点が発揮されるかは状況や環境、関わる人との関係性によって大きく変わります。
そのためわたしたちは繰り返し、現在の自分自身はどのような視点を持つ傾向があり、また環境や関係性からどのような影響を受ける可能性があるのかを確認し続ける必要があるのです。
倫理について学ぶというのは倫理規定に向き合うことではなく自分自身に向き合うこと。
まずはぜひ、自分が今、ものごとの判断の際にどのような基準を持っているかについて向き合ってみてください。
参考資料
ICFの定める倫理規定はこちら▼
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「対話をする」ということと、「対話のプロフェッショナル(もしくはご自身のお仕事や専門性に対話を組み合わせる」ことの違いはどこにあるのでしょうか?
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②2023年11月25日(土)JST 20:00-22:30
③2023年12月2日(土)JST 20:00-22:30
・内容は全て同じです。
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以下は修了済みの取り組みです
コーチの倫理について深める会のお知らせ
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・2022年1月28日(金)JST 21:00-23:00
*こちらはICFの倫理規定の概要とポイントについて学びます。コーチングを学び始めたばかりの方やコーチをつけることを検討されている方、他の領域にコーチングを組み合わせて活用したい方などが対象ですが、ICFの倫理規定について改めて確認しておきたいという方にもご活用いただけます。
B. 実践編:プロフェッショナル向け
①2022年2月11日(金)& 2月26日(金)いずれも JST 21:00-23:00
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*こちらはリアルなケーススタディをもとに対話を通じて倫理と美意識について深めていくため、コーチとして学びと実践を深められている方が対象です。経験年数や学ばれたスクールや等に関わらずプロフェッショナルとしてさらに変容していくことを目指す全ての方にご活用いただけます。
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