山田哲人の仕事の多さ
3月12日土曜日、本拠地・明治神宮野球場で迎えたオープン戦は、試合後の「出陣式」というトークイベントもあり、スタンドはもちろん、グッズショップ、飲食店も常に行列ができ、混雑していた。
座席の販売が間引きではなくなったこともあり、より“密”が強調されていた。
隣の席に人がいる野球観戦は、2019年以来だ。
しかし、両脇の空間を心地良く味わっていた丸2年を経て、私はコロナ以前の野球場を思い出せない。
感染防止のための観戦マナーががらりと変わった。
応援歌の歌唱どころか、声を出しての応援は今もできない。仮に今後声を出す応援が解禁された時、果たして2019年に戻るものなのか。
マスクをしたまま大声で歌う。そんなニューノーマルと、満員の神宮という旧ノーマルが混在する。そんな未来を私は想像できない。
運良く、通路側の席を取ることができた。片方でも空いている空間は、正直ありがたい。
試合は、3回、畳み掛ける攻撃で7点を奪ったヤクルトが。11対5でソフトバンクに勝利した。
昨季の主軸、1番塩見泰隆、2番青木宣親、3番山田哲人、4番村上宗隆にヒットが出てヤクルトファンを安心させたのはもちろん、若手の活躍が目立った試合だった。
キャッチャー中村悠平のコンディション不良で出場した2年目の内山壮真。まだ19歳だが入団当初からファームで柵越えを量産し、フレッシュオールスターでは唯一の得点となるソロホームランでMVPに輝いた。*1
1回、村上宗隆のタイムリー3ベースに続き、内山壮真のタイムリーヒットで追加点を入れる。中村を欠いた不安を払拭するヒットに、神宮のスタンドは沸いた。
ショートスタメンで出場した長岡秀樹は、2019年ドラフト5位で入団した3年目の20歳だ。
長岡は、タイムリーを含む4多数4安打の大活躍だった。
同期は、奥川恭伸と武岡龍世。高校ジャパンのユニフォームを着た同級生の2人に、ドラフト後の松山秋季キャンプの見学で泊まったホテルで、2人の部屋を訪れ話を聞く、好奇心旺盛な男の子が、その探究心で春季キャンプの切符を獲得し、オープン戦でここまでの存在感をアピールした。*2
試合後の出陣式。高津臣吾監督のスピーチは、いかにも高津臣吾らしい、明るいスピーチだった。
「今年も一生懸命頑張りますので、皆さんも一生懸命頑張りましょう!」
これが、高津節。ともに闘う。顔を上げ、同じ方向に歩む。ヤクルトファンとして、この関係が心地良い。
そして、その後のトークショーでは、キャプテン山田哲人、今年から選手会長になった小川泰弘、塩見泰隆、村上宗隆、奥川恭伸が登壇した。
ニッポン放送・煙山光紀アナウンサーの質問に答える、山田。
──世界初、4回目のトリプルスリーを目指す思いは。
単純にここ数年、自分の成績が納得のいく数字ではないんで、もう一度達成したいなという思いがあって、(目標を)立てました。
──今年は「率」にこだわりたいということて、打率、それから「率いる」という意味もあると。
しっかり先頭に立って、キャプテンとしてもチームに貢献したいなという思いがあって、この漢字を選びました。
──もう一つの目標がゴールデングラブ賞受賞ということで、キャンプでも特守を若手に混じって受けていました。
取りたいですね。
──(トリプルスリーを)取るにあたって、ここがポイントというところは。
結局は、アウトにすること、勝利に貢献するプレーをたくさんすることがいちばんだと思いますけど、かつファンの方にも感動を与えられるような、華のあるプレーもしたいなと思います。
──そのファンの方からの質問です。日本一になったと実感したエピソードはありますか?
たくさん、連絡くれました。いろんな人からの「感動したよ」「ありがとう」というLINEを見て実感しました。
──今年の目標は。
『勝』たくさん勝ちたいですし、優勝、連覇するためには、一試合一試合が大切なんで、勝つ、と。
昨季、キャプテンという大役を務め、チームを日本一に導いた。
今年の誓いに「率」の文字を選んだ山田。*3
野球だけでなく、チームのまとめ役として勝利に「導」いた昨季から、もう一つ課題を自身に与えた。
それは、キャプテンを引き受けた当初に持っていた、「野球でチームを率いる」というビジョンだった。
FAという人生の岐路を迎え、自身の野球人生を考えた末、FA宣言せず残留の道を選んだ。
その中で、環境を変え、甘えを捨てるために、人生初のキャプテンを志願した。
キャプテンらしい態度で率いることはできないが、「野球に対する姿勢や考え方、結果で引っ張っていきたい」というキャプテン像を描いていた。*4
優勝は、2015年に一度経験している。しかし2021年の優勝は、チームの核として自らの手で引き寄せた価値があった。
それでも、野球の成績は満足のいくものではなかった。
打率.272、34本塁打、4盗塁。
本塁打は、最年少100本塁打到達の村上宗隆と競うように増えていったが、トリプルスリーまでの道のりは険しかった。
キャプテン1年目に手が届かなかった、更なる高み。
キャプテンとトリプルスリーとの兼任は、世界初4回目のトリプルスリーとともに、誰もが成し得ない困難さを極めるだろう。
今年で30歳になる、山田。てっちゃんが、三十路……信じられない。
野球界では、30歳の声と同時に、ベテランという言葉がちらつき始める。一般社会とは違う、時間経過だ。
実際、いつの間にか年下の選手が多くなり、内山壮真や長岡秀樹のような若手選手が、結果を残すために食らいついてくる。
それどころか、後輩への指導時役割も果たさなければならない。春季キャンプでは、足の速い並木秀尊に走塁の直接指導も行った。*5
キャプテンとしてチームをまとめ、レギュラーとして生き残りをかけた戦いをしながら、相反する若手の育成まで担う、今季の山田。
昨年よりも、仕事が増えた。いや、自ら仕事を増やした。
すべては、連覇のため。そのためにチームを「率」いるキャプテンは、今年ますます忙しい。
体、大切に。
*1
*2
*3
*4
*5