感動は伝えるものじゃなく、伝わるものだ

新年おめでとうございます。

世界中が大きく動いた一年があけました。
変わった生活が戻ってくる気配は、まだまだありません。

それでも、時間は淡淡と経過していきます。

だとしたら。

目の前のことに全力で取り組むこと。
日々その繰り返しで、少しずつ前に進むこと。
今、自分にできることを考えること。

そうしているうちに、新たな景色が見えてくるかも知れません。

私は今、「野球を書く」勉強をしています。
結構な歳になって、こんな新たなことに取り組むなんて、思っても見ませんでした。
しかしそれは、自分の人生を振り返る作業でもありました。
こどものころから野球と野球選手にたくさん影響を受け、自分の人生が形づくられていることに気づいたのです。
野球を書くことは、人生観を整頓することでもありました。

少しでも上達したくて、「上達するためには読んでもらうこと」と、noteに投稿を始めたのが、2020年2月2日。
東京ヤクルトスワローズ・村上宗隆選手の、二十歳の誕生日でした。

◇◆◇◆◇

2020年のツイッター投稿で、思わぬ反応があったツイートがありました。

神宮は毎試合、遅刻してでも足を運んでいますが、ビジターの試合はテレビ観戦と決めています。
2020年9月30日水曜日。横浜スタジアムで行われたDeNA戦。私は自宅でCS放送を視聴していました。生の観戦ではないもの、それが「解説」です。
この日の解説者は、横浜ベイスターズOB・佐伯貴弘さん。柔らかい口調と丁寧な説明で、野球を知らない私にも野球の奥深さが伝わってくる解説でした。

2対5でヤクルトリードの8回裏。セットアッパーとして清水昇投手がマウンドに上がりました。
しみのぼくんの活躍は、目を見張るものがありました。攻める気持ちがよく伝わる気迫のピッチングと、抑えたあとのガッツポーズに、私はすっかり魅了されていました。
2019年のファン感謝DAYで購入した福袋に、「SHIMIZU 17」の本人着用ビジターユニフォームが入っていたことにも、運命を感じています。笑

しみのぼくんのピッチングは、攻めの姿勢がビシビシ伝わる、とても気持ちのいいものです。しかし本人は必死でしょう。
キャッチャーは、22歳の古賀優大。清水昇は23歳(当時)。若いバッテリーが、目の前の打者を抑えようと、必死に立ち向かっていました。

そんな中、佐伯さんの解説で、しみのぼくんのことに触れられました。

清水昇の話

佐伯貴弘
学生時代から見ていて、すごい選手がヤクルトに入ったと思った。プロ初先発の時に解説したが、別人のようだった。学生の時の清水選手に戻ったよう。昨年の先発の経験も無駄じゃなかった。苦しかったと思いますけどね。

佐伯さんは私を泣かすために今日解説してるの?#swallows

午後8:24 · 2020年9月30日·Twitter for iPhone

2021年1月1日現在の「いいね」数、706。一般人のおばさんの投稿にしては、十分“バズった”反応です。

しみのぼくんの1年目は、悔しいシーズンでした。大卒ルーキー、ドラフト1位となれば当然、即戦力として期待されての入団です。しかし、1軍登板は11試合にとどまり、0勝3敗、防御率7.27という苦い結果に終わりました。

2年目の2020年シーズン。1軍の舞台を経験して、学ぶことがたくさんあったのでしょう。そしてその学びをしっかり自分のものにして、彼はマウンドに上がっていました。
勉強熱心な、真面目な青年の姿が、そこにありました。

國學院大學時代のしみのぼくんと、プロ1年目のしみのぼくんの違いなど、素人の私には分かりません。
ただ、学生時代からしみのぼくんを見ていて、前年の不振を心配していた佐伯さんの目に映るマウンドのしみのぼくんは、きっと微笑ましい球場の風景となっているのだろうと、そう感じたのです。

そして何より、「苦しかったと思いますけどね」。この一言に、野球選手の苦悩と葛藤が凝縮されているような気がして、涙が止まりませんでした。

佐伯さんも、プロとして苦しい日々を過ごしてきたでしょう。同じプロとして分かる苦悩だからこそ、今目の前で必死に投げている清水昇という若者に共感し、寄り添ってくれたのだと思います。
佐伯さんの感動が伝わるこの解説に、たまらずツイートしたところ、バズったわけです。

私は思いました。「感動は伝えるものでなく、伝わるものだ」と。

感動させようと思って何かをするのではなく、目の前のことに真剣に、全力で取り組むこと。そのことが人を感動させるのだと、佐伯さんの愛にあふれた解説で感じました。

野球を書く修行は、まだまだ続きます。続けたいから、続きます。
野球の感動を伝えるのではなく、私が心震えた感動が伝わるように、何事にも真剣に向き合うこと。
そしてそれを情熱を持って書き続けること。

それが私の、2021年の抱負です。

◇◆◇◆◇

2020年は、野球を取り巻く環境も変わりました。
それでも、野球を見つめるすべての人の視線は熱く、温かいものでした。
私はこうして、多くの野球愛に触れ、楽しい日々を過ごしています。

旧年中は大変お世話になりました。
本年も変わらぬおつきあいを、どうぞよろしくお願いします。

心豊かな一年になりますように。そして、すべての野球好きと、すべての野球選手にとって、

幸多き一年となりますように。

追記

2020年9月30日。この日は梶谷隆幸選手が、月間42安打という球団記録を達成した日でもありました。9月最終日、もう後がない状況で6回裏、先発・石川雅規投手から打ったツーベースヒットで、球団月間41安打という球団記録を塗り替えたのです。
そして、それまでの記録保持者が、大洋ホエールズ時代のパチョレック選手と、横浜ベイスターズ時代の佐伯貴弘選手でした。

何という巡り合わせでしょうか。中継中に入った「偉大な先輩の記録を超えることができ、感無量です」という梶谷選手の談話に、「そう言ってもらって、涙が出そうです」と言った佐伯さん。球団の歴史と頑張り抜いた後輩を見つめる優しい視線もまた、佐伯さんの感動が伝わる、いい言葉でした。

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