イーカロスの影絵(2023/01/22)
アーカイヴ拝聴いたしました。
素晴らしい出来でした。
フォーミュラ・アーラという作品は、私が本当に書きたいものを声劇台本というフォーマットの上で書くために、ト書なしで全十七章のザッピングによって全体図を浮かび上がらせるという構造を採っています。
本来であればこういう動きのあるお話は、SEやタイミングなども含めて細かく( )で結んだト書で挿入すべきなのでしょうが「ト書なしでやってやる!!」という謎の制約を自ら設けてしまったため、演者さんたちには一話ごとの水面化展開を脳内補正し、登場人物の会話のキャッチボールだけでどういう展開があったか推測してもらうという仕様になっています。
つまり、死ぬほど使いづらい台本です。
熱量と浪漫に全振りした結果、機能面はユーザーフレンドリーの対局に位置してしまいました。
その中でも『イーカロスの影絵』にはFAバトルシーンがあります。
また、作品内での時間の流れもあって、三回大きな場面転換を挟みます。
このような構造の中で、冗長にならず緊張感を保ったまま、どうやって音だけで上演するかという高いハードルを持った台本です。
ボイコネにもアップした『エリキウスの扶翼』は、話の展開が比較的わかりやすく、かつ感情のダイナミズムのポイントが明確であるため、イーカロスの影絵に比べるとずっとやりやすい作品だと思います。(ファントム・ペインを挟んだフル版はまた別ですが)
こういったさまざまな面倒ごとがついて回る台本なので今回のような素晴らしい上演になるとは正直思っていませんでした。
アーカイブを聞いておったまげました。
皆様の思い切りの良い熱演だけでなく、SEとBGMを化学反応として使い、話のテンポとフォーカスを自在に操られていた点が素晴らしかった。
演出・出演の皆様にはありったけの感謝の言葉を送らせていただきたいです。
生命を吹き込んでくれてありがとうございました。
以下、各キャストへの個別の感想です。
CAST
コード・ロメオ:脳天トマホーク
本作の主人公でありながら、今ひとつ覇気のないコード・ロメオ。
適解の幅が狭いくせに、微妙なエモーションの匙加減を要求する役だと思います。
無気力に徹してしまえば目も当てられないけど、感情を入れすぎると役割から逸してしまう、ピーキーなキャラクターです。
脳天トマホークさんの描くロメオはバランス感覚が絶妙でした。
比率はおよそ9:1に固めて、1のダイナミズムをここぞというタイミングで爆発させる戦略的なお芝居だったと思います。
バッファロー・レヴ:油男
作中のエモーションと熱量、ロボットモノの醍醐味たるバトル、そして山場では作品の精神的テーマを鳴り響かせるストーリーにおける重要な役割です。
バッファロー・レヴの人間臭さがイーカロスの影絵のメッセージ性の強さに直結すると考えています。油男さんのバッファロー・レヴは直球でトルクがあり非常に良い押し出しがありました。メッセージ性を押し出して欲しいキャラクターですので、パワフルさがとてもありがたかったです。
イリーナ・ゴルベフ:れぅ
今作におけるイリーナは話の中盤でのテンポキーパー、テンションキーパーの役割を持ちます。
チャレンジャーとチャンピオンの二人のテンポ感が行きすぎてしまったり、呼吸点を見失わないようにマーキングをしてくれるのですが、その際のテンション、温度感が要諦になると思っています。
話の進行を司るアナウンサーはテンションの高さが前提になるので、一方のイリーナは全体的にローでありながらも話のテンションをまとめていくという、ちょっと特殊な役割だと思います。れぅさんは指揮者のように冷静にキープされており、そのおかげで油男さんとぎんのさんが一層ハッスルできたかなと思っています。
ジェイ・カプレーティ:かーん。
イーカロスの影絵の影の主役ジェイ・カプレーティは話の前半と終盤で、話の緊張感だけでなく、味付けを決定するスパイスのような役割を持っています。
かーん。さんのジェイはシリアスプレイヤーとしてストーリーの背景にあるテーマをしっかりと訴えてくれています。全演者さんの中でも特に洋画寄りの喋り、声質だったように思います。かーん。さんのリーディングのおかげでストーリー全般の雰囲気が決まったように思います。
アナウンサー / コイントス:ぎんの
寡黙なFAパイロットコイントスの好演もさることながら、ストーリー中盤のアナウンサーのエネルギーは圧倒的でした。熱狂的アナウンサーのぎんのさんが話をブン回してくれることで、ロメオとバッファロー・レヴのやりとりがシリアス一辺倒になっても、聴き疲れしないという構造になっていると思いました。このストーリーの実質的なエンジンです。
サイコビリー:とんび
ジェイとのコンビネーションによって聞き手をストーリーに引き込んでくれる素晴らしい誘引役を演じられています。失礼な言い方になりますが、若干スカした感じがいかにもそれらしく、聴き始めのぼんやりとした世界観にリアリティの肉付けをしてくれています。
この手のキャラクターは味付けの自由度が高くて、どの程度奔放な感じにするかが演者さんによってかなり異なり、場合によってはバランスを狂わせるリスクもあると思いますが、とんびさんのサイコビリーは収まりがとてもよかったです。
フールズウォール / マナ・フロアー:タープ
通称『壁と床』を演じられたタープさん。
芝居がかった、朗々としたよく通る明朗な発声に先述のBGMの相乗効果で
フィクションの中のもっとも架空の存在でありながらとても印象に残る存在感を呈してました。コッテリとさせないと設定に埋もれてしまうキャラクターなので、くどくなったり食傷気味になったりするリスクも高かろうと思ってましたが、タープさんの床と壁はキャラクター設定を活かしながらも自然でした。
(全敬称略)
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