2020_0607 劇団摂氏零度第二回本公演 スクリーンに一輪〜夜〜レビュー
(全敬称略)
2020_0607
劇団摂氏零度第二回本公演
スクリーンに一輪〜夜〜 レビュー
作 羽白深夜子
総論
方法論になってしまうんですが
まず、出囃子の使い方が巧妙です。
開演ブザー前に隠し球のようなフックで
煮えてきた観客の意識を一回はたきます。
この台本そのものは尺もさほど長くなく
登場キャラクターも三人のみ。
限られたリソースの中で
どれだけリアリティを積み重ねて
首を締めてくるような説得力を出せるのかが
上演の際のキーポイントになると思います。
私は羽白さんの作品の魅力の一つに
「圧倒的なディティールの生々しさ」
があると思うんですが
それを短い時間、少ない人数で出すには
役者一人一人に相当な計算と判断が要求されると思っています。
そういう意味で、この三人の役者は
殺陣のような位置取りで三者三様の
攻め方をしていたと思いました。
謀略劇の中にわずかに挟まれる
男女の甘い時間は、それが頭から尾まで
全部嘘と罠で出来ていても、芝居が良ければ
これは永遠に続く愛の物語なのだと
瞬間的な錯覚を起こさせるだけの魔力があります。
台本についての細かい考察は
専門ではないので控えますが
カーテンコールまで観劇した上で
これは永遠に続く愛の物語なのだと、私は思いました。
間鳥琴子:羽白深夜子に関して
瞬間的に連想したのは
止血が間に合わない薄幸さです。
キャラクターとしての輪郭は
もちろん、ちゃんと在ります。
それなのに、役としてその生命が
どんどん薄れていくような
髪が梳かれていくような演技をします。
まるで死人か幽霊が、人を演じているような。
冒頭は上記のように彼岸からスッと入ってきて
その後、劇中で全身に初潮を迎えた乙女のような
血の気を送り込むという
ギャップをフルに使った振る舞いをします。
なるほど、実に蠱惑的です。
最後の笑いは狂気ではなく狂喜のそれでした。
間鳥蒼士:それいゆに関して
蒼士というキャラクターが
感情を箱から出していない様を
演技でしっかりと表現しています。
拍子、声の量、音の波形など
均整が取れすぎているあまり
漂う偽物感を極めて冷静に演じています。
息を滲ませて声を震わせて声の波形の
大小をしっかり生み出す白来の演技の人間臭さとの
対比はとてつもないコントラストを作品に生み出している。
出せるだけの生々しさと技量を後ろに持ちながらも
それを意図的に殺してみせると
こうも相手に距離感を要求する声と所作になるのだなと。
クライマックスの怒声でさえ底冷えしています。
この方の演技は徹底していますね。
白来冬哉:アルコに関して
毒を飲んで喉を焼かれたような声で
モノローグを語り舞台をこじ開けました。
どの作品にも言えることなのですが
第一声第一挙動はその上演の方向性を
うっすらと決めてしまうような節があります。
開演まで引きつけた最初の一言がこれなら
期待は文句なく高まります。
劇中、白来としての表現では
やや軽薄で人懐っこく、あたりの良い
育ちの良さそうなキャラクターを描いていました。
演技ではあらゆる要素を敢えて大きく揺らし
W間鳥だけでは沈み切ってしまいかねない
劇全体を強くバウンドさせています。
透けてしまいそうな琴子とビニールに包まれた蒼士の
『逆側』を一人でしっかりと担っていました。
ちなみに、この方が上演では
一番ダイナミックな演技をされていたのですが
お芝居の精度は三人で一番高かったです。
当たり前のようにノーミスで
終始高いクオリティのまま、役のまま舞台の上を去る。
ごく簡単なようで、とても難しいことだと思います。